「ディアッカ…っ!!!!!」
6
ドンッ
「っああ…っ」
悲痛な叫びが響く。
「ミリィ!!?」
「な…っミリアリア!?」
二人は状況が把握出来ない。
名前が呼ばれると同時に、聞き慣れた鈍い音。
ディアッカとイザークの身体が小さな力に押され、ミリアリアが彼らの視界にちらりと入る。
そしてよろめくディアッカの胸に彼女が倒れこんだ。
目の前には“汚れた”銃弾と、割れた窓ガラスの破片。
瞬く間の出来事。
ディアッカが、ミリアリアを支える自分の手の違和感に気づく。
─…生暖かい。
それはちょうど、人間の体温と同じぐらいで、辺りには鉄のにおいが広がる。
ディアッカの手のひらが、赤かった。
「ミ…リィ…?」
ディアッカは全身から血の気が引いていくのが分かった。
「何だ今のは!?」
イザークがはっとして割れた窓の方を見る。
すると明らかに不自然な場所にいる男と目があったかと思うと、
男はギクリとしてイザークに背を向け逃げ出した。
勘のいい彼は、それを見ただけでほとんどのことを理解した。
「何故ミリアリアがここにいるのかは知らんが、
くそっ…そういうことか!!!」
“チッ”とイザークは舌打ちすると、目線をディアッカの方へやった。
ディアッカは、突然目の前に現れ、血を流し倒れた自分の愛しい人に、依然激しく混乱していた。
「おいディアッカ!!しっかりしろ!!!」
イザークの一喝で、ディアッカは我に帰った。
「イザーク!!…なぁこれ、どういうことだよ!?」
「例のヤツだ!!とにかくお前はそいつを医務室に連れていけ!!俺はヤツを追う!!」
「でもイザーク俺は…っ!!」
「お前がかつて、俺たちザフトを敵に回してまで護りたかった女だろう!!?ならばこれは
お前の最優先事項だろうが!!安心しろ、医者と上には俺から話をしておく!
それに俺は、お前などいなくても絶対大丈夫だからな。さっさと行け!!!」
「悪いなイザーク、サンキュ…恩に着るぜ!」
そう言ってディアッカは、ミリアリアを抱えて医務室の方に向かって走り出した。
なるべく傷に障らないように…。
イザークはディアッカの背中を見送ると、“フン“と鼻を鳴らして『仕事』へ向かった。
─ミリィ…ミリアリア…!!
ミリアリアの袖はどんどん赤い色に侵食されていく。どうやら撃たれたのは右腕らしい。
「ミリィ、もうすぐ医務室だからな…!」
*
「…んっ……」
─腕が痛む…薬品のにおいがする…ここ…は…?
「ミリィ!!目が覚めたのか!!」
「ディア…ッカ…?」
ディアッカがミリアリアの顔を覘きこむ。
「大丈夫か?腕…」
「腕?あぁそうか…私…。ディアッカ、ここは…?」
「医務室、ザフトの。あの瞬間気を失って…傷自体は銃弾がかすっただけだったけど…。
何やってんだよ…お前」
「…ごめんなさい…迷惑…かけちゃった…」
「ばか!そうじゃなくて…」
ディアッカは言葉に詰まる…。
ミリアリアがいなければ、自分は死んでいたかもしれなかった。
「…あいつ…ちゃんと捕らえられたから。さすが、ウチの隊長は優秀だよな」
思わずディアッカの笑顔はぎこちないものとなっていたが、
ミリアリアはそれには気づくことなく会話を続けた。
「あんたもイザークも、無事そうで良かった」
「ああ、ありがとうな」
ディアッカが、ミリアリアの頬を撫ぜると、
その動作に何故かミリアリアは胸が切なくなった。
「…そろそろ帰るか。俺も今日はもうあがりだ。外に車呼んであるから」
「ありがとう。でも私、普通にここを出て大丈夫なの?」
「イザークが裏出口までの通路を人払いしてくれてる。ほんとさ、あいつには
頭上がんねぇよな」
ディアッカが苦笑いをする。ミリアリアもつられて苦笑しながら、今度会ったら礼を言おうと思った。
*
「ミリィ…?どうした?具合、悪いのか?」
帰りの車の中で、ディアッカが突然そんなことを言い出した。
「え…なんで?大丈夫よ?」
「あ…いや、それならいいんだ」
「そう?変なの」
実際はそうではなかった。確かにミリアリアはどことなく落ち着きがなかったのだ。
けれど落ち着きがないのはミリアリアだけではなかった。
ディアッカも、何所となくそんな気配を漂わせていた。
そしてまた、その空気をそれなりに感じとっていたのは、ミリアリアも同じだった。
「ディアッカ…?」
「…ん?」
「何でも…ない…」
何かが二人の間に募っていく。
それはまるで、車の進む距離に比例するかのようだった。
プラントの空は、既に黒く色づき始めていた。
短いシリアスですね(爆)。…え?あ、いや、シリアス続きますよ。…多分(殴)。