「ディアッカ…っ!!!!!」

 

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       ドンッ

 

 

 

 

      「っああ…っ」

 

 

 

    悲痛な叫びが響く。

      「ミリィ!!?」

      「な…っミリアリア!?」 

    二人は状況が把握出来ない。 

    名前が呼ばれると同時に、聞き慣れた鈍い音。

    ディアッカとイザークの身体が小さな力に押され、ミリアリアが彼らの視界にちらりと入る。

    そしてよろめくディアッカの胸に彼女が倒れこんだ。

    目の前には汚れた銃弾と、割れた窓ガラスの破片。

    瞬く間の出来事。

    ディアッカが、ミリアリアを支える自分の手の違和感に気づく。

     ─…生暖かい。

    それはちょうど、人間の体温と同じぐらいで、辺りには鉄のにおいが広がる。

    ディアッカの手のひらが、赤かった。  

      「ミ…リィ…?」

    ディアッカは全身から血の気が引いていくのが分かった。

      「何だ今のは!?」

    イザークがはっとして割れた窓の方を見る。

    すると明らかに不自然な場所にいる男と目があったかと思うと、

    男はギクリとしてイザークに背を向け逃げ出した。

    勘のいい彼は、それを見ただけでほとんどのことを理解した。

      「何故ミリアリアがここにいるのかは知らんが、

       くそっ…そういうことか!!!」

    チッとイザークは舌打ちすると、目線をディアッカの方へやった。

    ディアッカは、突然目の前に現れ、血を流し倒れた自分の愛しい人に、依然激しく混乱していた。

      「おいディアッカ!!しっかりしろ!!!」

    イザークの一喝で、ディアッカは我に帰った。

      「イザーク!!…なぁこれ、どういうことだよ!?」

      「例のヤツだ!!とにかくお前はそいつを医務室に連れていけ!!俺はヤツを追う!!」

      「でもイザーク俺は…っ!!」

      「お前がかつて、俺たちザフトを敵に回してまで護りたかった女だろう!!?ならばこれは

       お前の最優先事項だろうが!!安心しろ、医者と上には俺から話をしておく!

       それに俺は、お前などいなくても絶対大丈夫だからな。さっさと行け!!!」

      「悪いなイザーク、サンキュ…恩に着るぜ!」

    そう言ってディアッカは、ミリアリアを抱えて医務室の方に向かって走り出した。

    なるべく傷に障らないように…。

    イザークはディアッカの背中を見送ると、フンと鼻を鳴らして『仕事』へ向かった。  

     ─ミリィ…ミリアリア…!!

    ミリアリアの袖はどんどん赤い色に侵食されていく。どうやら撃たれたのは右腕らしい。

      「ミリィ、もうすぐ医務室だからな…!」

                    *

       「…んっ……」

     ─腕が痛む…薬品のにおいがする…ここ…は…?

      「ミリィ!!目が覚めたのか!!」

      「ディア…ッカ…?」

    ディアッカがミリアリアの顔を覘きこむ。

      「大丈夫か?腕…」

      「腕?あぁそうか…私…。ディアッカ、ここは…?」

      「医務室、ザフトの。あの瞬間気を失って…傷自体は銃弾がかすっただけだったけど…。

何やってんだよ…お前」

      「…ごめんなさい…迷惑…かけちゃった…」

      「ばか!そうじゃなくて…」

    ディアッカは言葉に詰まる…。

ミリアリアがいなければ、自分は死んでいたかもしれなかった。

    「…あいつ…ちゃんと捕らえられたから。さすが、ウチの隊長は優秀だよな」

 思わずディアッカの笑顔はぎこちないものとなっていたが、

ミリアリアはそれには気づくことなく会話を続けた。

      「あんたもイザークも、無事そうで良かった」

      「ああ、ありがとうな」

    ディアッカが、ミリアリアの頬を撫ぜると、

    その動作に何故かミリアリアは胸が切なくなった。

      「…そろそろ帰るか。俺も今日はもうあがりだ。外に車呼んであるから」

      「ありがとう。でも私、普通にここを出て大丈夫なの?」

      「イザークが裏出口までの通路を人払いしてくれてる。ほんとさ、あいつには

       頭上がんねぇよな」

    ディアッカが苦笑いをする。ミリアリアもつられて苦笑しながら、今度会ったら礼を言おうと思った。  

              *

      「ミリィ…?どうした?具合、悪いのか?」

    帰りの車の中で、ディアッカが突然そんなことを言い出した。

      「え…なんで?大丈夫よ?」

      「あ…いや、それならいいんだ」

      「そう?変なの」

    実際はそうではなかった。確かにミリアリアはどことなく落ち着きがなかったのだ。

    けれど落ち着きがないのはミリアリアだけではなかった。

ディアッカも、何所となくそんな気配を漂わせていた。

そしてまた、その空気をそれなりに感じとっていたのは、ミリアリアも同じだった。

      「ディアッカ…?」

      「…ん?」

      「何でも…ない…」

    何かが二人の間に募っていく。

    それはまるで、車の進む距離に比例するかのようだった。

    プラントの空は、既に黒く色づき始めていた。 





                                         

                                               短いシリアスですね(爆)。…え?あ、いや、シリアス続きますよ。…多分(殴)。