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「おはようディアッカ」
「ああ…おはよミリィ」
今朝ディアッカとどんなふうにして顔を合わせればいいのか、ミリアリアは散々悩んだが、
これから一週間共に過ごすのだ。険悪になるのだけは避けたかった。
まるで昨夜は何も無かったかのように振舞うのは、ズルイとは思ったが、
結局ミリアリアにはこうすることしか思い浮かばなかったのだ。
…幸いディアッカも合わせてくれた。
「朝食、もう出来てるわよ」
「お、美味そうだな」
「悪いんだけどディアッカ、私もう行こうと思うの。目的地まで道がよく分からないから…
今日はあんたも仕事でしょ?」
「ああ。そうか…じゃあくれぐれも無茶すんなよ?危ないと思ったらすぐひき返せよ?」
「うん、分かってる。じゃ…」
「行ってらっしゃい!晩飯、楽しみにしてるな」
「ん…行ってきます」
*
「ここね…?思ったより入り組んでるわね…」
ミリアリアが歩いている場所は、ザフト軍基地の近辺。
以前ザフトと民間人との間で、大規模な銃撃戦が繰り広げられた所である。
ディアッカとは詳しい仕事内容については、干渉し合わないのが暗黙の了解だった。
こうしてミリアリアが彼の仕事場の状況を探るのは、彼も承知の上ではあるが、
決して気持ちのいいものではなかった。だが、善くも悪くも真実を突き止める。
それが彼女の決めた信念である。
─ひどいな…撃ち合いの後が生々しい。何人の人が死んだんだろう。
ナチュラルを受け入れられない人が、まだまだ沢山いるんだわ…。
今やザフト軍は、ナチュラルと手を取り合い、協力し合う政府を護る組織なのだ。
ミリアリアがカメラに色々な情景を収める。
そうこうしていると、どこからか足音が聞こえてくるのに気がついた。
─まずい…っ!誰か来る!?──ザフト兵──!!!
直感でそう感じたミリアリアは、身を小さくしながら慌ててその場から走り去った。
ところが、なんとかザフト兵から逃れたが、落ち着く暇もなく、彼女は重大なミスに気がついた。
「……うそ…ここ…どこなのよ…」
戦場カメラマンとはいっても、まだまだ新米のミリアリアは、
あまりに慌てていた所為で、うっかり知らない場所に来てしまっていたのだ。
それも、おそらく…ザフト軍基地内に…だ。
─どうしよう…さっきよりもっとヤバイじゃない…
とにかく来た道を戻って、出口を探さないと…!!
そうして兵隊に見つからないように、あたふたと通ってきたらしい通路を
歩いて行くと、突き当たりの向こう側から、
またしても兵隊であろう男の声が、ミリアリアの耳に届いた。
「───っ!!!!!」
ミリアリアの心臓の音が高鳴る。
「ったく…なんで俺がお前の護衛なわけ!?」
「なんだ貴様、さっきの話を聞いていなかったのか!!?」
「いや、聞いてたけどさ…アレだろ?最近ザフトの中に、
怪しいヤツが潜り込んでるかも知れねぇ…ってやつ」
「そうだ。そいつの目的がスパイか暗殺かは知らん。組織的かどうかもな。
だからこそ俺達が、わざわざこんな地にまで調査に来ているんだ。」
「そうなんだけどさ、イザークなんか俺がいなくてもぜってー大丈夫じゃん?」
「ふざけるな。この隊長様の御顔に傷でもついたらどうする!!」
「ついこの前まで、デッカイ傷残してただろ?」
「うるさい!」
「へいへい」
そう…聞こえてきたのは、紛れもなくディアッカの声。
─え!!?
ちょっとなんであいつが…ディアッカがここにっ!?
信じがたい現状を目の前に、ミリアリアはその状況を確かめずにはいられなかった。
足音と息を殺しながら、壁に背をつけ、突き当たりの角で歩を止める。
向こう側に少しだけ顔を出し、ザフト兵の姿をちらりとを確認する。
そこには、金と銀の頭に、緑と白の軍服の後ろ姿があった。
─間違いないわ…ディアッカ…それからイザーク。
困ったな…ディアッカならこの状況を、きっとなんとかしてくれる。
だけど迷惑をかけるのはご免だわ。だってただでさえ今は、お互い仕事中なんだから…。
もう一度二人の姿を確認してみる。すると彼らの側にある窓の向こうに、
先ほどは気づかなかった、何かが反射したような、かなり小さな光がミリアリアの目に入った。
─………??……
ミリアリアは目を細めた。そして“それ”が何であるかを認識した途端、
──目を疑った。
確かにミリアリアの目に映っているもの。それは…
ザフト軍の男、いや、ザフトの軍服を着た男が、木の上の茂みで
銃を構えているものである。
銃口が、二人に向いていた。
男からは、ミリアリアの姿は死角で見えていないらしい。
─何…?何が起こっているの…?
次の瞬間、男が引き金を引くのが見えた。
─まずい!!!!
そう思うが速いか、ミリアリアの身体は既に動いていた。反射的にといっていい。
「ディアッカ…っ!!!!!」
ここの話、どこで切ろうか迷ったんですが、ちょっと引いてみました。
続き気にならなかったら済みません(苦笑)。
とりあえず山場です。もう少しお付き合い下さいね。