*9*


あなたが教えてくれたこと


あなたは覚えていないかもしれないけれど


まだ使いこなすことは出来ないけれど


私は全部覚えてる。


あなたの全てが愛しいから。






















 「それじゃあサクラ、私は入り口で待機してるから…」

 「はい」

日が沈み始めた頃、私達は任務の相手の隠れ家の前にいた。

 「危なくなったらすぐに逃げて来ること。私も気配を察してすぐにそっちに向かうから。

  あんたはあくまで実習なんだから、絶対に無茶するんじゃないよ?」

 「判りました。…それじゃ、行ってきますね」

顔にこそ出さないけど変わらずアンコ上忍は辛そうで、それに比べて私は不思議と落ち着いていた。












洞窟の暗闇も怖くはなくて、それどころか奥へと進むほど落ち着きが増す自分に驚く。

まるで誰かが隣にいるような錯覚さえ起こしそうになる。


けれどその感覚はすぐに消え去ることになった。







奥からささやかに洩れる灯りが見え始めたところで、

一瞬白い光に包まれたかと思うと、さっきの灯りの洩れていた場所の向こう側には洞窟の抜け穴があった。

抜け穴を出ると、そこに広がるのはほんの数分前に見たような夕暮れの空。

 「!?…外…?」

キラキラと光る草花の緑は懐かしい茜色の空に映えて、思わずため息の出そうな光景が広がっていた。

けれど普段なら駆け出してしまいたくなるようなはずのこの光景を前に、私の足はその場に立ち止まったまま。

 「………これは…」

何かがおかしい。

自分が進んだはずの距離にしては、外に出るにはあまりにも早すぎる気がした。

それに何よりこの感覚に、身に覚えがある。

感じる違和感はとても優しいもので、

身に覚えがあるなんていうレベルじゃない。


知ってる。


判らないはずがない。


次第にはっきりし始める記憶。

疑念は確信へと変わる。






これは大好きなあの人のものだと。







これがもしあの人のものでなかったとしたら、

私はずっとこの迷路をさまよっていたのかもしれない。

これから起こるはずの任務など忘れられたかもしれない。

けれどわずかなこの感覚でさえ気付かずにはいられない。

あの人のことをこんなにも覚えてしまっているのだから。


 「解…!」


目を開けると、私はさっきまでの光景とは180度違うものの中にいた。

 「───っ!!?」

あげそうになった悲鳴を、手で口を覆って何とか抑える。

目の前にも、自分の足元のすぐ横にも、

沢山の死体が辺りには転がっていた。

ビクリと身体が大きく跳ね上がり、さっきまでの落ち着きが嘘のように心臓が早鐘を打つ。

 「何が…あったの…?」

思わず後ずさると、背後にあった血だまりに足を取られて転びそうになる。

 「……っ!!!!」

意識しなくても溢れてくる涙を乱暴にぬぐって、

震える足を叱咤して私は更に奥へと進んだ。






頭をフル回転させて考えるけど

混乱していて何が何だか全く判らない。

何故こんなことになっているのか。

言い渡された任務の内容とは違う。

何かが起きたのだけは明らかだ。

そして死体のあった場所に掛けられた幻術。

それは多分ハヤテ先生のもので…。


どうしてハヤテ先生がここにいるのか


本当に先生のものなのか


それらを確かめたくて、

何が起こっているのかを知りたくて、

もはや息をすることを断たれたヒトをいくつものり越える。

この気持ちだけが、暗闇の中でのその莫大な恐怖心と戦う。








洞窟の中は次第に広くなっていき、

長く長く感じられるような距離を進んでも、一向に減る事のない死体の数。

そんな気味の悪い中、静かに辺りを照らしている灯り。

足は既に自分のものではない血にまみれ、ぐちゃぐちゃになって

生臭い人間の臭いに吐き気がして何度もむせ込む。

ただ願うのは、


この血にあの人のものが混じっていることなどないように








大きな扉で行き止まりになっている一番奥まで、やっとの思いで辿り着くと

今までとは比べ物にならないほど嫌な感じがする。

ゴクリと唾を飲み下し、

冷や汗が顎を伝う。

だけどこの扉を開けば全てが判るような気がして、

恐怖と緊張を押し殺して扉に手を掛けた。

最後の勇気を振り絞って扉を押し開けると

目に飛び込んできたのは


愛しいあの人の姿。



あんなにも会いたかった人



確かめたかった事実



けれど言葉が出てこない。



血をまとった彼に愕然とする。



その姿はあまりにも冷たくて



何とか口を動かした言葉はちゃんと音になったのだろうか?













 「……ハヤテ…先、…生…?」












 

グロテスクシーン第2弾(爆)。
いや、前回より断然マシですけど…。
幻術シーン難しかった…(汗)。ちゃんと伝わってます…か…?
内容的には今回のお話はあまり面白くはないですかね…?
っていうか私が書いてて苦しかったです(苦笑)。
次からやっとハヤテとサクラが絡めますv(笑)ひゃっほい♪