*10*


今あなたにだけは


会いたくなかった


この血に染まる私を


あなたは決して受け入れないのでしょうね。


たとえあなたが最初から私を見ていなくても、


拒絶されてしまうことだけは耐えられないのです。












 「……ハヤテ…先、…生…?」




 「サクラ…、さん…」



サクラさんの瞳が大きく見開かれている。

その視線に耐えきれずに、私は彼女から目を逸らす。

あなたにだけはその様に見られたくなどなかった。

あなたのその目ほど、怖いものはない。


けれどこれも私の本当の姿なのですから

遅かれ早かれこうなる運命だったのかもしれませんね。


それでもやはり、この姿を知られたくはなかったんです。


怖がらせたく…なかったのに…


本当に…いつも私は彼女を笑わせることは出来ないのですね。






 「何故…ここまで辿り着けたのですか…?」

 「え!?あ…だって…」

 「幻術が…仕掛けてあったはずですが…」

サクラさんの悲しそうな顔にはっとする。

あまりの動揺とショックで、思わず冷たい声色になっていた。

普段の通りに接したくても、先程までの戦いへの集中と、自分の黒い部分をを曝け出していたせいで

心の中の冷めた感情はどうにもおさまってはくれない。



 「やっぱり…あの幻術は先生だったんですね…」

 「……!?」

 「気付かないはずないじゃないですか…」

私のことが怖いのでしょう…。サクラさんは私からずっと目を逸らしている。

そして今度は私が彼女を見つめる形になっていました。

 「だって…ハヤテ先生が教えてくれた術だから…」

 「…!!…」

彼女の口からは思いもよらない答えが返ってきました。

 「覚えて…たんです、か…」

私がたった一度だけ修行の時に見せた幻術。

それをサクラさんが覚えていて、そしてその幻術を自力で破って来たというのですか?

 「………」

どうしてこの少女は私の心を掴んで離さないのでしょう。

そのセリフを今この状況ではなく、いつものように明るい空の下で聞けたなら、どんなに素直に喜べたことか。



 「…先生」

 「あなたはまだ、私をそう呼んでくれるのですね」

 「…え…?」

 「ここまで来れたのならあなたも見たでしょう…?あの死体の数々を」

 「………っ」

 「あれは全て私がやりました。そこに転がる男の死体も。酷いですか…?…私はこういう人間なんですよ」

 「どう、して…あんな…」

理由を、聞くのですか…?あなたが…?

ああ、駄目だ。

黒いものがとめどなく込み上げてくる。

 「それでは私も訊きますが、どうして諜報任務なんか受けたのですか?」

 「知って…っ!?」

なんて卑怯な答え方なんでしょう。

私はあなたに質問をし返すことで、あなたへの答えを誤魔化したのです。

 「……当たり前です……」

半ば自分にしか聞こえないくらいの声で言ってから、気まずさに、私は彼女に背を向ける。

 「…逃げたらどうですか。私が…怖いのでしょう?」

 「………」

否定の声も肯定の声もなく、ただ開け放たれていた扉の閉まる音だけが聞こえました。

それでいいんですよサクラさん。私にあなたは眩しすぎたんですね。

私はもう二度とあなたの前には、姿を見せません…。















 「……ハヤテ先生…」


 「───!!?───」

扉の閉まった室内に響いた声と


だんだん大きくなる足音


 「なっ…!?何をしてるんですか!!」

振り返れば、震える足でこちらに近づいてくるサクラさんの姿。

そして次に、その姿に驚かされる。

先程まで部屋の薄暗さに紛れていた彼女の姿は、私に近づくことによってはっきりとした姿になってゆく。

それは美しいと同時に、少女と言うにはあまりに不釣合いな女性の姿。

 「逃げろと、言ったはずです!」

 「嫌よ!!」

 「…っ!」

 「私は先生が怖いんじゃない…。今…私がここから逃げたら、

  先生とはもう二度と会えない気がする…。その事が一番怖い…」

そんな風に言わないで下さい。

勘違いしそうになる。

あなたは…優しすぎます。

そんなあなたをこれ以上傷付けたくはないんです。

 「…っお願いですから、私の前から消えて下さい」

あなたの優しすぎる言葉は私を苦しめる。

私はこんなにも醜いんです。

ただでさえあなたのことで怒りを覚えていたのに、その矛先をあなたにだけは向けたくないんです。


 「…っ!!先生怪我して…!!」

 「触らないで下さいっ!!!」

駆け寄って、私でさえ気が付かなかった小さな傷に触れようとする彼女の手首を掴む。

突然の怒鳴り声にビクリと肩を震わせる彼女と、間近で目が合う。

掴んだ手首は今にも折れそうな程細くて、

鼻を掠めるのは甘い香り。

唇を濡らす薄い紅と、わざと乱雑に纏われた着物。

それらは彼女が任務をするためのもので、

つまりはあんな男のためのもので



悲しみ



怒り



独占欲



嫉妬



汚い感情が、溢れ出す。




それらはもはや受け止めきれずに、私の中から零れ落ちた。










だから…逃げろと言ったんです。





















掴んだままの手首を強引に引き寄せ、
































私は彼女に口付けた。












 

ハヤテ爆発(汗)。
やっと書けましたこのシーン!!正直なところここからお話が
出来上がっていったようんなもんです(笑)。
管理人は黒いハヤテも結構好きだったりします。
次はまた裏要素入りますので、苦手な方は注意して下さい。