*5*


彼女の口から出てくるのは、いつもいつもあの人の名前。


 
「カカシ先生ったら、今日も任務の待ち合わせ時間に1時間半も遅刻したんですよ!?」


彼女はとても楽しそうにあの人の名を呼ぶ。


 
「カカシ先生のバカ…!!」


そう言えば、出会った時もそうでした。


ああ…私には、最初から届かなかったんですね。










自分はずっと恋など出来ない人間だと思っていました。





物心のついた頃から、私には“興味”という感情がありませんでした。

自分の命さえ生まれた時から満足に備わっていなかったんですから

何かに興味を持つなど、ましてや大切な存在を作ることなど無意味に等しかった。

忍びになったのは、たまたま家が忍びの家系だったから。

任務中に死ぬことは、たまたま自分の死ぬ予定が早まったというだけ。

もしかしたら明日にでもどうにかなってしまいそうなこの身体で、


恋をする事ほど虚しいことなんてありません。





それなのに





いつからでしょうか?


私のこんな気持ちは…





小さな身体に付いた無数の傷跡は、自分の身体より痛々しくて





強くなりたいと生きる姿は、暗闇の自分とは対極の姿。





全ての仕草はその翡翠の瞳を更に鮮やかにさせ



話す声も



微笑む表情も



こぼす涙も



これほどまでに美しいと感じたことはありません。






あなたがその声であの人の名前を呼ぶ度に

これまでにないほど私は苦しくなる。

私はただ黙っていることしか出来なくて。

口を開けば、隣で嬉しそうに話をするあなたに

信じられないくらい醜い言葉を言ってしまうかもしれないから。






はたけ上忍が何故、サクラさんの修行を見なかったのか

私には簡単に判りました。

何故ならすぐに私も同じことを考えてしまったのですから。

あの人はずっと前からサクラさんを想っていたのですね…。

はたけ上忍が困った顔をしたのは、サクラさんが好きだったからなんですね。


でもはたけ上忍

私にはそうすることでしか

彼女の傍にはいられないんです。






私は一度あなたにこう言いました。

 
「…前の様には…呼んでくれませんか…?」

そうすれば私の本当の気持ちを知ることが出来る気になっていたんです。

この気持ちが勘違いならどんなに良かったでしょう…と

私の場所など最初から無いと知っていたのですから。

本当は既に判りきっていたというのに…。


こんなにもあなたが好きだと


あの後のあなたの姿に、私は何とも言えないこの感情を隠し切れていたでしょうか…?

あんな風に悲しませるつもりなんて無かった。

私の言葉は彼女を悲しませただけで、


サクラさんを笑わせてあげることが出来るのは、私ではない


ただそう実感するだけでした。








あの日の空の様に目を真っ赤に染めて

いつもよりも遅れてやって来たあなたに

私が唯一できた精一杯の行動は、


ただあなたの頭を撫ぜるだけ。


抱き締めるのも

その涙をぬぐうのも


その役目はきっとあの人にしか許されない。













サクラさんを護ることが出来るのは






















私ではない…。








































 「お疲れ様です、月光上忍」

確かこの人は…海野イルカ先生でしたか…。

サクラさんのアカデミー時代の担任だったと、中忍試験の時に聞いたことがあります。

 「…ごほっ…これ、報告書です」

いつものように任務の報告書を彼に手渡す。

今日の受付は珍しく彼だけのようですね。

 「えーと…はい、確かに」

大雑把に目を通して記入洩れを確認し、書類を置くと笑顔でそう言われて

よく笑う人だなぁなんて思いながら受付を後にしようとしたところ、背後で彼の呟く声が耳に入りました。


 「…春野…!?」


思わず振り返ると、彼の目線の先には丸秘と書かれた書類の束。

嫌な予感がして慌てて彼の元に駆け寄りました。

 「サクラさんに何かあったんですか!?」

 「月光上忍…?」

 「…っいいから教えて下さい!!」

私と彼女の関係を知らないであろう彼は不思議そうに私を見ましたが、

それを説明することすらもどかしくて、気が付けば彼の胸倉を掴んでいました。

 「…!!…済みません…」

数枚散らばった書類の音と彼の驚く顔で我に帰り、ひとまずその手を離しました。

それに丸秘と書かれた文書の内容を、彼が簡単に教えられる訳がないんですね…。

 「…あの、春野の修行を見ていらっしゃるというのは本当ですか…?」

 「…知っていたんですか…」

 「ええ…まぁカカシ先生がそれらしいことをおっしゃっていたので…」

あの人の名前が出たことについ反応してしまう…。

けれどそんなことよりもその書類の中身が気になって気になって仕様がない。

苛立つ気持ちを何とか押し殺す。


 「月光上忍」


 「何ですか?」






































 「春野が…諜報任務の実習に就きました」













 

長い!!あー長い!!済みません…(汗)。
イルカ先生友情出演(笑)。
全く…どこまで捏造すりゃ気が済むんですかね管理人は(苦笑)。
っていうかすれ違い激しいですねーこの人達(お前のせいだろ!)

因みに私はハヤテさんのように病気がちな方の命が、
生まれた時から十分でないなんて決して思っていませんので一応。
書きながらどうしようかなーとは思ったんですけど、
そこはあくまで物語り上のことですので!!
全ての命は例えどんな形であっても平等なんです。

気分を害された方がもしいらっしゃいましたら、申し訳ありませんでした。