*3*
自分と何歳離れてると思ってるんだよ。
しかも教え子。
けどこの感情は嘘じゃない。
あいつなんかよりもずっと俺の方が想ってきたんだ。
彼女の心がやっと俺を見始めたと思ってたんだ。
それなのに…どこで俺は間違ってしまったんだろう…。
空が真っ赤に染まり始めた頃。
いつもの場所でいつもの会話。
ただ違うのは俺のざわつく心。
「はい、今日の任務はこれで終わり!解散!!」
「あー腹減ったってばよー!サスケ、一楽寄ってこうぜっ」
「あぁ?なんでお前なんかと行かなきゃなんねーんだよ…」
「お前だって行こうとしてるんだからいいじゃねーかよー。いいもんねーサクラちゃんと行くもんねー」
「悪いけどナルト、私この後用事あるから無理」
「えぇーっサクラちゃんまで…」
「その前にサクラ、お前はちょっと残れ」
「……え…?」
サクラが不安そうに俺を見てるが、こういうのは教師の特権。
「カカシ先生ずるいってばよー」
「………」
「はいはい、キミ達二人はとっとと帰る!!」
ナルトは見るからに不満気に、サスケも小さく舌打ちして帰って行った。
二人の姿が見えなくなると俺は残ったサクラの方を向く。
サクラは未だ不安そうな表情のまま。
「サクラ」
「…何ですか…?」
「今日もハヤテと修行か?」
「…知ってたの…?」
そりゃそうでしょ。好きな子のことなんだから。
「んー…まぁ、な」
「それが何か関係あるの?」
「いやーほら、お前の担当としてはな、やっぱ気になるのよ」
至って平静を装ってるけど、正直最近の俺はずっと焦ってる。
「俺がいるのに違う奴にわざわざ教えてもらってるのとか聞いたら、やっぱり俺が担当じゃ嫌なのかなーって思うでショ」
俺がそう言った途端、サクラの表情が曇った。
俯いて、身体が小刻みに震えている。
大丈夫だろうかと思ってサクラに近づこうとした時…。
「何で先生がそんな事言うの…!?」
勢いよく顔を上げ、そう叫んだサクラの目じりには涙がこぼれ落ちそうなくらいに溜まっていた。
「サク…ラ…?」
「先生が言ったんじゃない!!…私には忍びとしての素質が無い…って…!!」
「ちょ…っサクラ!?」
「何度も私が修行を見てって言ったって、ナルトやサスケくんみたいにまともに見てくれなかったじゃない!!」
サクラのその言葉で、はっとした。
俺は自分が犯した過ちに今更気付いたんだ。
「サクラ…!!」
サクラが走ってそのまま逃げようとするのを俺は慌てて追いかけて捕まえた。
「落ち着けサクラ!!ちゃんと話を聞くんだ!!」
「やだっ!離してよ先生!!………いたっ」
「!!悪い…」
サクラの手首を掴んでいた手に思わず力が入っていたらしい。
掴まれたその場所はほんのり赤くなっていた。
そして思い出す。あの日の任務終了後のこと。
まるで今日みたいな真っ赤な空の下の出来事。
「先生、私の修行いつ見てくれるの?」
「どうしたんだ急に?」
「だってナルトやサスケ君の修行はしょっちゅう見てあげてるのに、私のは全然見てくれないじゃない…」
「そうむくれるなよサクラ…。ナルトやサスケとお前とは違うんだから、修行内容も当然変わってくるさ」
「…そんなに私、忍びとしての素質ないんだ…?」
「なーに言ってるの。別にそういう意味じゃないよ」
「っカカシ先生のバカ!!」
いつものことだと思っていた。
サクラはあいつらと違って、攻撃タイプより寧ろ幻術タイプだ。
サスケは俺とタイプが似ているし、ナルトはチャクラが大きい分、やはり攻撃型だから。
それにサクラにはサクラのペースがある。
けれどサスケの才能とナルトの目覚ましい成長…
サクラがあいつらに本気で引け目を感じることなんて、少し考えれば判っただろうに。
どうしてもっと気を配ってやれなかった…?
どうしてもっとちゃんと話してやらなかった…?
違う
俺は教え子の向上心が嬉しい反面
好きな女が強くなって、危険な目に遭うのが嫌だったんだ
だからナルトやサスケの修行にばかり力を入れた…
───────最低だ───────
「…先生?…」
気が付けば俺は、サクラを抱き締めていた。
抱き締めればサクラの身体の小ささがよりいっそう強く感じられた。
そして改めて気付く。
この小さな鼓動は、既に俺には反応なんかしていないんだということに。
「ごめんサクラ…ごめんな…」
俺は揺れていたんだ。
愛しいこの存在を傷つけたくない気持ちと
愛しいこの存在が望む道の間で
そして俺はこいつの担当であるのをいいことに、
俺のエゴがこいつの道を閉ざそうとした。
いっそこの感情を伝えてしまえばどんなに楽だろう…?
今の俺に…
そんなことを言う資格なんてないだろ。
「先生…苦しい…」
サクラの訴えを無視して、俺はせめてもの償いを囁いた。
気持ちを顔に出さない自信なんて無いから、サクラを抱き締めたまま。
「…俺の言葉が足らなかったな…」
「…え…?」
「サクラに素質が無いなんて誰が言った…?」
「………」
「お前の忍びとしての素質はナルト達とは別のところにある。
サクラにはサクラのペースがあるんだから、無理したり気にしたりしなくてもいい」
「…うん」
「今までお前の気持ちに気付いてやれなくて……ごめんな」
好きだよサクラ。ずっとずっと……。
「お前は心配しなくても大丈夫だから…」
「うん…先生に当たったりしてごめんなさい。ありがとう…」
でも…俺なんかじゃきっと駄目なんだろうな。
「ハヤテも優秀だけど、俺だって修行見てやれるってこと忘れるなよー?」
「ふふっ…はい、判ってます先生」
この手を離してしまえばきっと…もう…
俺はようやくサクラを腕の中から開放した。
「なぁサクラ………ハヤテは好きか…?」
最後にそう聞いた時
乾いたはずの涙が一筋、サクラの頬を伝った
予定通りカカシ視点出来ました。
ちょっとカカサク気味ですか…?っていうかカカシ不憫(笑)
管理人も二人をくっつけたい衝動に駆られながらも我慢我慢。
ほら、ハヤサク小説ですから…(耐)。勿論ハヤサクも大好きですし!
ちょっと長めのお話になっちゃいました(汗)。
まぁ前回が短かったんでその分ってことで。
そう言えばこの長編、珍しく甘さが全然無い!!
んーでも最終的には甘いんですよ、きっと(笑)
まだまだ続きますが、お付き合い下されば嬉しいです。