*13*
背中を包みこむように回された腕はあたたかくて
乱れた髪を梳く仕草は、頭を撫ぜるのよりもあなたの指先を一層強く感じる。
その指先がどんなに人を殺め、
この腕の中がどんなに血で汚れても
私は何度でもその血を濯ごう。
例えその血が私の手に付いたとしても
あなたが身を汚して私を護ってくれたように
私もあなたを護りたいから。
辛さに耐える強さなんかよりも
本当に大切なのは護る強さだと
あなたを傷付けて初めて気付いた。
あの先にあるものなんて何も無かったのだと。
何て馬鹿なんだろう。
大好きな彼らとは同じものではないかもしれないけれど
今度こそ強くなりたい
…あなたはきっといつまでも必要だけれど。
「ずっとずっと、こうしてあなたに触れたかった…。そうやって名前を呼んで欲しかった…」
ああ、何だ…この人も私と同じ。
「…だって…、ハヤテさんにはずっと妹ぐらいにしか見られていないと思ってたもの…」
だから、私を縛り付けていた言葉をあえて言ってみた。
「それは…っ、…あなたには他に好きな人がいると…思ってましたから」
どこかふてくされたような声が返ってきた。
「言っておきますけど私、……ハヤテさんと一緒にいる時が一番楽しいんですからね…?」
彼の言う私の想い人は多分…サスケくんのことかもしれない。もしかしたらカカシ先生かも。でも今の言葉はちゃんと本当。
「……私達…すごく遠回りなことしてたんだね」
「……そうみたいですね」
私を包む腕の中が、ぎゅっと狭くなる。
遠回りはひどく長く感じたけれど、でも、こうやって繋がった。
そう感じるのもお互いに同じみたいで、何だか嬉しかった。
「ごめんなさいハヤテさん」
彼の気持ちが判った以上、どうしてもこれだけは言わなきゃならない気がして、ハヤテさんの胸に顔を埋めながら呟く。
それは勿論この任務のこと。
「…はい」
「きっと私…ハヤテさんを傷付けたわ」
「私こそ…済みませんでした…」
「うん」
今にも落ちそうに髪に引っかかっているかんざしを、彼の手が抜き取る。
そのかんざしをしばらく見つめたあと、ハヤテさんの心臓の音が少し早まった。
今は服一枚でさえ隔てのないその音は、澄んで耳に入ってくる。
「………………嫉妬…というものを…しました…」
「え?」
「全てがそうだというわけではありませんが…、でも、あなたのこの姿があまりに……その…魅力的だったから…。
それがあんな男のためだと思うと……ごほっ」
最後の咳は本物かどうかは判らなかったけれど、
「……私以外の人の前ではあまりそんな格好をして欲しくないんですね……」
照れくさいけど、嬉しい。
「うん……今度はこんな格好じゃなくて…もっとちゃんと強くなりたい…。…だから…また修行を見てくれますか…?」
「ええ…当然のことなんですね。」
視界は彼の胸に遮られていたけれど、先生がクスリと笑ったのが判った。
普通の男の人よりもずっと白いその肌には、あちらこちらに色々な傷が付いていて
私の手には届かない人だったのだと改めて思う。
けれども私は今、その腕の中にいる……。
あれほど渇望した想いが繋がったんだって
ハヤテさんの温度にじわじわと実感する。
「ハヤテさん、……もう一度キス、してくれますか…?」
この何とも言えないような幸せな気持ちでもっと満たされたいと思ってしまう。
わがままを言わずにはいられなくなる。
そんな私を抱き締める腕の力をハヤテさんは緩め、私を見下ろした。
「…喜んで」
少し頬を染めながらも、嬉しそうに微笑んでくれる彼にドキドキしながら私は目を閉じる。
「……っくしゅん…っ!」
「………」
私に降ってきたのは予想に反した音。
驚いて目を開けたら、恥ずかしそうにそっぽを向いて口元を手で覆っているハヤテさんがいた。
私の視線に気付いたのか、彼は気まずそうに目線だけをチラリと動かしてこっちを見る。
ハヤテさんはさっき血に濡れた服を脱いだせいで、冷やりとする洞窟の中しばらく上半身裸になっていたのだ。
「…ぷっ…ふふふっ…」
彼の顔があまりに赤いから、
バツの悪そうな顔があまりに愛しいから、
思わず笑いが込み上げてくる。
私が笑い出すとハヤテさんは顔にこそ出さないけれど、何だか拗ねてるみたいだった。
「……………サクラさん」
「へ?」
目じりに涙を浮かべて笑いを堪えていると、
ハヤテさんの手が私の顎に添えられ、頬に小さくキスされた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
「笑った仕返しです」
不意打ちに、今度は私の顔がハヤテさんよりも赤く染まった。
すっかり顔の熱が引いたハヤテさんは、真っ赤になっている私をよそに
少しだけ口元を緩ませながら、濡れて未だ乾ききっていない服を着ている。
思った以上に冷たかったのか、彼は一つ咳払いをした。
「ごほっ、…そろそろ戻りましょうか…」
差し出された手の平に自分のを重ねて、私は寝台から下りて彼の隣に並ぶ。
その時、視界の端に部屋の隅で横たわる死体を捉え、あの死体の道を再び歩いて戻るのかと思って身震いをした。
今までは丁度、寝台からその死体が見えていなかったのだ。
無意識に彼の手を強く握っていたのか、ハヤテさんは震える私に気付き、
その手を引いて私を抱きかかえた。
「あんな光景をサクラさんに二度も見せられないんですね」
申し訳なさそうに言うと、彼は私を抱えながら器用に印を結び
するとどこからか木の葉が舞って、真っ白な煙が私達を包みこむ。
そして私達はこの場を後にした。
ハヤテさんからは血の臭いが未だに微かにして、
あの冷たい目を思い出す。
確かに少しは怖かったけれど、
この腕の中が果てしなく優しいことも知っているから。
どんなあなたもきっと受け入れられるから。
だからこれからはずっと
あなたの傍にいさせて。
だらだらと続いて済みません…!!(滝汗)
次で括って、アフターエピソードを1話入れるくらいで終われるといいなぁ(苦笑)
本当は両想いになってすぐ終わるのがいい気がするんですけど、
話に疑問や矛盾を残したままにするのは嫌なので…(本当に文章力も計画性も無いな…/泣)
この話絶対後で手直しすると思いますね。
次はちょっと誰視点か分かりません。もしかしたらアンコか…も?
多分普通にハヤテがしゃべってくれると思いますけども…どうだろう。
このお話中は出来るだけ糖度抑えて、アフターエピソードで砂糖てんこ盛りにする目論見です(笑)