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「くっ…!…兄さん、…あなただけでも…っ」
「あ…っ…す、みませ…小、夜…」
「馬鹿者が…。……悪く思うなよ…」
「っぐああぁぁっ…!!!!!」
アメリカの大都会であるニューヨークの街中は、今日も行き交う人々の喧騒に包まれていた。
しかしその部屋には驚くほどの静けさが漂い、太陽の光が品の良い白のカーテン越しに柔らかく窓際のベッドへ降り注がれている。
部屋の照明は落とされていたが、光はそれで十分だった。
そんな空間で一人ベッドに横たわる男は、身じろぎひとつせずに長年閉じたままだった瞼をゆるゆると持ち上げ、黙って天井を見つめる。
そして恐る恐る視線を窓へと移した。
「ぼ、くは……いったい…」
男の視界は記憶にあるそれとはどこか勝手が違っていた。
そして声も久し振りに声帯を振るわせたせいか、掠れてほとんど音になっておらず、辛うじて自身が聞き取れるほどであった。
次第に意識がはっきりとし始めて、自分はどうやらベッドに寝かされているらしいことが判ると、
身体を起こそうと全身の筋肉に力を入れる。
だが思うように上手く力が入らず、すぐに再びシーツへと身体を埋めてしまった。
そんな状態に彼自身驚きを隠せず部屋中に視線を彷徨わせていると、すぐ側の壁に掛けられたカレンダーに目が留まった。
そして思わず目を見開いた。
「…っ!?三十、年…まさ、か……その間、ずっと…!?」
そこに記されている数字が本物だとすれば、彼の最後の記憶の日付から既に三十年以上もの月日が流れていることになる。
「…なんてことだ……。そうだ、小夜…、小夜は…!?」
男は慌てて必死に身体を動かし、無理矢理起き上がろうとする。
「小夜なら三十年前、ディーヴァを倒して再び休眠期に入ったわよ」
「!!?」
返ってくるとは思いもしなかった返事が返ってきて、またしてもベッドに沈んだ男は多少の自由が利いている首をわずかに動かし、
警戒しながら声のした方へ顔を向けた。
視線の先には、派手な格好をした男が部屋の入り口のドアに腕を組んで寄りかかっていた。
「…っネイサン…!!」
「お目覚めのようねー、久し振り。身体の調子はどう?」
彼は相変わらずの独特な口調と、どこか陶酔したような目でベッドの上の男へ言葉を投げ掛けた。
男は驚きながらも見知った顔に少なからず安堵を覚え、目元を微笑ませる。
「ネイサン…生きていたのですか…」
「あら、随分な言われようじゃない。三十年以上もの間ずっと世話してあげてた恩人に向かって」
言いながらネイサンはベッドまで歩み寄り、男の背中とベッドの間にクッションを入れて、身体を少し起こさせてやる。
「すみません…。…身体は…どうやら左目の視力を失っているようです。それに、全身の力が上手く入らなくて、
どうにも…動けそうにありませんね…。…あの…ネイサン…これは、いったいどういう……?」
そう言った男の左目は光を失ったまま赤く、そして正常に働いているという右目は彼本来の色をしていた。
声も次第に元に戻ってきて、僅かではあるがきちんと音になっている。
その様子にネイサンは口元に笑みを浮かべた。
「アンシェルとジェイムズに感謝することねー。…ああ、勿論アタシにも。そして何よりアナタ自身と、小夜のおかげよ…」
「…小夜、の…?」
不思議そうに訊ねる男に、笑みを意味ありげに一層深く顔に作ってネイサンは答える。
「小夜はちゃんと生きているわ。そしてアナタが一番感じているはずよ。
アナタが今ここにこうして生きている理由と、小夜の眠りを。
たとえ“身体”は違っていても、その本能で…ね。
────ソロモン」
2話連続ソロモンという単語で終わっています。これぞソロ小夜小説たる所以(嘘です済みません偶然です)。
いやーーー…やっと…やっとっ、まともなソロモンが出ましたよ!!モン様出なすった!!(笑)
でもこれ、第1話の伏線から気付いてた方結構いらっしゃるんではないでしょうかねー?
その割に引っ張りましたけど(苦笑)。
彼がオッドアイ化(違)したのは私の趣味です(え)。いつか挿絵とか描きたいなぁ…(ニヤリ)。
冒頭の過去ソロモン…痛そう…(苦笑)。
そしてネイサンも出しちゃいましたね!!ネイサンの口調書くのが一番楽しいvv(笑)