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ディーヴァのコンサート会場に翼手が現れ騒然となっている会場の裏で、カイをシュヴァリエにしようとしているディーヴァたちと

小夜たちはもう何度目になるかなど見当もつかない程重ね、未だ決着の付かない戦いを繰り広げていた。

ハジはネイサンに捕らえられ、また小夜も長兄アンシェルとの戦いで捕らえられて、形勢がディーヴァにあるのは誰の目から見ても

明らかであった。そして彼らの女王であるディーヴァの一声によって、小夜の首に回されたアンシェルの腕に徐々に力が入り始める。

次第に小夜の意識が遠のき始め、ついにそれを手放したその時、ディーヴァめがけてナイフが飛んできた。

それをいち早く察知したアンシェルは小夜を離しディーヴァの元へ急ぐと、そのナイフが彼の手の平に刺さることで女王はこと無きを得た。

首を絞めていた腕から開放され、気を失った小夜が崩れ落ち膝を付く前に、ナイフを投げた人物が彼女を素早く抱き上げる。

 「…ソロモン…」

 「…シュヴァリエの列から離れるだけでなく、ディーヴァに刃を向けるか…」

ディーヴァは様々な負の感情を織り交ぜて呟き、アンシェルは声を低くして言った。

 「さようなら……ディーヴァ…、…さようなら…兄さん…」

翼手化し、眠った小夜を連れて羽ばたくソロモンの姿が、まだ騒がしさの鳴り止まない夜空へと消えていった。





 「小夜…小夜…」

窓から摩天楼の見える部屋のベッドに腕の中の少女を静かに下ろし、ソロモンは声を掛けた。

小夜のまぶたがピクリと動き、ゆっくりと伏した睫毛が持ち上がる。

 「…ん……ソ、ロ…モン…?…っ!!?」

とっさに起き上がろうとする身体をソロモンは制し、いつものように優しく微笑みかけた。

小夜の目は鋭く、彼の微笑みにそれが解ける様子もない。

 「…気が付いたのですね。怪我は大丈夫ですか?」

 「なんで…あなたが…」

 「言ったはずです。あなたを愛しているからでは理由になりませんか、と。

  あなたが兄に殺されそうになっているのを、黙って見てなどいられません」

小夜の瞳が一瞬、揺れた。

 「でも…あなたは…」

開く小夜の唇に、白く長い指が触れる。

 「もう黙って、小夜。まずは傷の手当てが必要です」

 「こんな傷…すぐに直る。あなたも知っているでしょう?」

 「ええ、だからこそ手当てをしなければならないのです。あなたの傷の直りは確実に遅くなっているはずです」

赤い瞳は揺れながら睫毛に蔭り、強張っていた身体が更に堅くなったかと思うと、すぐにゆったりとベッドに沈んだ。

ソロモンは小夜の負傷している右腕をそっと取り眉根を寄せた。

 「こんな傷…あなたの美しい肌には似合わないのに…。ここだけじゃない、他にも沢山…誰にも傷つけさせたくなどないのに…」

穏やかな声色の向こうには、ありとあらゆるものに向けられた激しい憤りが潜んでいる。

小夜はソロモンから顔を背けた。

赤い上着を着ていたままの小夜の腕は、身体の布よりも濃い赤が広がっていた。よく見れば他の箇所にも広がる赤や、古い染みもある。

 「…小夜、傷口を見せてもらっても…?このままでは手当てが出来ません…」

 「………」

おずおずと彼女の左手が首まである襟のファスナーに伸びた。





 「ソロモン…」

小夜の腕に包帯を巻く手が止まった。

 「どうして…?」

たったひとつの疑問は、どんな答えにもいつも納得という言葉を知らない。

 「どうしてあなたは…こんなにしてくれるの?私とあなたは永遠に繋がらない……私とあなたは敵でしかない…」

小夜は本当に小さな声で呟いた。けれどまるで世界から切り取られてしまったかのような二人を取り巻く静けさは、心臓の拍動さえも

聞こえてきそうで、勿論ソロモンがその声を聞き逃すはずはなかった。

 「たとえ血が許さずとも、それよりも深いものがあなたを求めるのです。僕を捕らえるのは、ディーヴァではない」

 「…あなたの言ってることが…解から…ない…」

包帯を巻き終え、ソロモンは小夜をしっかりと見つめた。

 「僕にはこの気持ちを伝えられるほどの言葉を…持ち合わせていないようです。でも、分かって…小夜」

そう言って、ソロモンは握っていた小夜の右手を自身の胸に当てた。

そこからは壊れてしまいそうなほどの振動が伝わってくる。その激しさに、小夜は何故か胸が締め付けられるような気がした。

触れているだけなのに、息苦しさを覚えた。

 「分かりますか…?」

小夜ははっとなって手を振り解こうとするが、その手は力強く小夜を捕らえて放さない。

 「わ、分からない…!!分からないから…放して…!!」

半ば泣き叫ぶように言う小夜の腕を引いて抱き起こし、ソロモンはそのままきつく彼女を抱き締めた。

 「すみません、小夜。でもあなたからも僕と同じ音がするのに、放せるわけがありません…!!」

 「…ソロモン……」

小夜は唇を噛んだ。

 「どうして…!」

たったひとつの疑問は、どんな答えにも納得という言葉を知らないと、分かっているのに。

 「小夜、そんな顔をしないで下さい…」



それでも惹かれてやまない。


許されない。


目の前のやすらぎを欲してやまない。


運命の枷は外れない。


この温もりを愛してやまない。


一瞬でしかない。


血よりも深いところで


一瞬でも構わないと、そう聞こえた。



 「私…は……っ」

 「泣かないで、せめて僕といる時だけはありのままのあなたでいて」

頬を包みこむ手が涙を拭う。

ソロモンの悲しいくらいの笑顔に、小夜の涙は幾筋も流れた。

 「…ごめんなさ、い…ごめんなさい…」





 「小夜、愛しています」





唇が触れ、二人の影は傾き堕ちた
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やべぇやべぇ…!う、裏は書かないと信じています(爆)。
あ、でもこの人達は今から裏に行くようですからー(笑)。
っていうかやっと出てきたソロ小夜が過去のソロ小夜で申し訳ないです(汗)。
30年前のソロ小夜ですよ、あの伝説の(笑)43話のソロ小夜ですよ。
ここで初めて気付かれてたりしてー…(笑えねぇ)。
何度か突然過去にトリップすることがあるかもです。覚悟してて下さいね(え)。
因みに、アニメ本編と矛盾が生じても気にしない方向でお願いします(土下座)。
捏造上等!(開き直りかよ)