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長く真っ直ぐに続く階段を上り、高台に建てられた大きな墓の薄暗い部屋の中は、外の暑さとは裏腹に少しひんやりとしている。
人々が寝静まる頃、この部屋の入り口からは毎夜美しいチェロの音が聞こえてくる。
この音を聞いている客は誰もいない。
誰の耳にも届いてはいない。
けれどもチェロは、たった一人の愛しい少女の為だけに歌う。
それは少女を癒す子守歌のようでもあり、情熱的な愛の囁きのようでもあった。
ふとチェロの音が止み、再び静かな夜がその場の空気を侵食する。
ハジは少し俯きぎみだった顔を上げた。
その姿も眼差しも、少女と出会い血を共にした時から少しも変わっていない。
彼の愛しげな視線の先には、白い糸のようなものが複雑に絡まりあった大きな繭が眠っていた。
「小夜…聞こえていますか?」
繭は無言のまま。ハジは構わず続けた。
「あなたが眠りについてから、明日でちょうど三十年です。…やっと……」
彼の手が繭の白い壁に触れる。
「小…夜…?」
ハジは眉をひそめた。
長かった休眠期の終わりが近づいているというのに、その壁はあまりにも冷たく、まるで死んでいるようだった。
不安が一気に押し寄せてくる。
「小夜…小夜……小夜!!」
声を荒げてみても、当然返事はない。しかし本当に“返事”がないのだ。
人間の可能性を遥かに超えて長い間少女に連れ添っているこの男には、それがありありと判った。
嫌な、予感がする。
ハジの触れたその先からは、かすかな呼吸の音も、心臓の音も聞こえなかった。
「小夜、目を覚まして…」
祈るように呟き、ハジは繭に額を寄せて最後に一撫ぜすると、ゆっくりと立ち上がった。
そしていつものように一輪の薔薇を墓の前に置いて、静かにその場を後にした。
ただ彼の胸の内と歩を進める方向だけが、いつもとは違っていた。
…ハジ…。喋らせるのこれが限界…。ってか変態くさくないですかね?大丈夫ですかね?(ドキドキ)
今回またしても短い上にハジ小夜っぽい。うん、いいんですこれで(多分)。
たとえソロモンが全然出て来なくたって、ソロ小夜小説だと言い張ります(えー)。
あーやばい、今から不安だこの小説。ちゃんと…終わればいいな…(こら)。
しっかし、ハジじゃ間が持たない…(泣)。
次こそ…は、ソロモン出るはず…。次が一番書きにくい場面かもしれない(ひぃぃっ)。