-11-最終話



 ディーヴァ…

 この手に宿る温もりに   あなたの残した温もりに   あなたと同じこの温もりに

 二度と

 もう二度と私のような思いも、あなたのような思いもさせたくない…

 時を共に出来る私だけが…それを、することが出来る。

 償うことが、私には出来る…?

 でも苦しくて苦しくて

 償っていくことには、もう疲れてしまった。

 あの人のいない世界で、再び償いの道を歩くことなんて……きっと、今度こそ…耐えられない

 ねぇ…でもどうして。

 身体が
──血が、うずく

 ディーヴァのものとは違う、もう一つ感じる…何か。

 懐かしくて  愛おしくて  切ない

 この感じ………。







ソロモンが屈んで墓の中へ入ると、そこには小夜の匂いがするような気がした。

やっと目にすることの叶ったその愛しい姿に、ソロモンはまたしても涙が出そうになる。

今この瞬間に触れられることに、どれほど焦がれただろうか。

ソロモンは愛おしむようにして繭に手の平を寄せた。







トクン…

どちらのものとも言えない鼓動が、繭の中でこだまする。








 あの人の鼓動を感じた気がした。

 ああ…何故、こんな…。

 でもこればかりは嘘で、それはきっとこの温かい繭のせい。








トクン…








 なんて、心地のいい…音。

 一時だって忘れたりなんかしなかった。

 これがほんとうなら…いいのに……。








 「小夜」


 ────────っ!!!!








 「小夜、目を覚まして…」























もう……無我夢中だった。
























伸びきってしまった黒く艶やかな髪と、グチャグチャにされた白い糸が床にはらはらと舞い散らばる。



 「小夜…そんなに無理に繭を破ってしまったら…」

何かを確かめるようにしっかり開かれた目からは、みるみる内に大粒の涙が溢れ出し、久し振りに取り込んだ光にいち早く慣れようと、

何度もまばたきをする度にその涙がボロボロと床に染みを作った。


 「どうして…」


そう言った少女の指先は、繭を引っ掻いた時の摩擦によって少し血が滲んでいた。

 「…どうして、あなた…。だって…」

ソロモンはその指先を取って頬へ寄せて、同じように彼女の頬をもう片方の手の平で包み込み、親指で涙を拭う。

 「少し、遅くなってしまいましたが……でも小夜、あなたは僕を呼んだでしょう?」

繭の中で呼んだ声。



忘れるわけがない、遠い日の、あまりにも鮮やかな誓い。



 
“僕が必要な時は、いつでも僕の名を…”



小夜は小さく首を振った。

 「僕たちは、たくさんの家族を失ってきました。でも小夜…僕もあなたももう、奪うだけじゃない…。失うだけじゃない。

  新しい命もまた、誕生するのです。そう、あなたが…僕を救ってくれたんですよ。小夜…僕の、


  花嫁…」


小夜の瞳からまた一筋の涙が伝う。まるで、想いを交わせたあの夜の繰り返しのように。

 「はな、よめ…。ソロ…モン…。私、…あなたの…」

ふわりと小夜の心もとない姿をソロモンが包み込む。

 「もう…僕の身体はあなたの知っているものではないですが、それでも小夜、この心はあなたをずっと…ずっと愛しています」

優しい温もりが、あたたかな匂いが、確かに小夜の奥深くまで届く。

 「ううん、わかるよ…ちゃんと。ほんとうに…ソロモン、なんだね…」

少し戸惑いがちに、けれども確実な互いの想いをもって、二人の唇は重なり合った。






 「小夜、共に生きましょう。新たな…家族として」






ここにもう一度、至福の温もりが花開く。






 「私ね、ずっと…ソロモンに言いたかったの…」






そして今度こそずっと…






 「私も、ずっとソロモンのこと……」






永遠に。







END

終わっちゃいました、ね!!(爽)
いやぁーーーホント、何度もお約束なスランプはやってきましたが、何とか終わらせることが出来て良かったです。
とりわけ今回はかけ足な感じはしましたがー(苦笑)。多分修正いっぱいすると思われ(うわ)。
でもね、書きたいことは山ほどあったし、書いてる内にそれは更に増えていったんですけど、
当初からこのシーンで終わらせることは考えていたことなので、そこは譲れませんでした。
今回挿絵として描かせて頂いたシーンがそれです。もうね、この絵のイメージがずっと頭の中から離れなかったんですよね。
一瞬ソロ小夜の結婚式とかで終わらそうかなぁーとか思わなくもなかったんですが、いかにもハッピーエンドな感じがウチの
小説じゃないなーと…そういうわけで。また、ね、機会があれば番外編とか書いてもいいんですけどね。いつになることやら(笑)。

「Blue Rose」=“あり得ない事”。最近では“奇跡・神の祝福”。何よりBlue Roseは園芸家の“夢”。
Blueには“希望”っていう意味合いもあるんですよね。
当初あいまいな知識と共に単なる響きだけで、ぱっとしたんでタイトルにしたんですけど、調べて見れば思いの他この小説に合った
タイトルだったんじゃないかなぁ…と思います。結構無理矢理な感じが否めませんが(汗)。
あー…あと、個人的に最終話は『語り継ぐこと(元ちとせ)』がBGMな感じです。
何ともまとまりのない後書きで済みません(苦笑)。

まぁ何はともあれこれでひとまず終わりです。
幾度にも渡る更新停滞に屈せず、最後まで読んで下さった皆様には頭が下がる思いです。(管理人のせいですが)
途中たくさんの励ましのお言葉を頂きました。この作品が好きだと言って下さってすごく嬉しかったです。
そんな皆様のお気持ちのためだけに、書きあげることが出来たと言っても過言ではありません。
これからも小説の方は特にチマチマやっていくと思いますが、宜しくお願い致します。(深々)

本当に有難うございました。

<2007,08,08>



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