に君の笑顔




ずっとずっと会いたくて、話がしたくて、もしかしたらそれだけが頼りだったのかもしれない。

一生懸命修行して、どんなに力をつけても距離はちっとも縮まらない。

それでも耐えて、2年も経った。

待ちわびて、そしてやっと目に捉えることの叶ったその姿。

2年前の自分たちなど比にもならないほど距離は遠く遠く離れていて、涙して、項垂れて、そして気丈に振舞う。


まだあなたは、耐えなければならないのですか?

あの後のあなたの笑顔は、この僕でさえ見ていて辛かった。

ただの顔に貼り付けた笑顔だというのは僕と変わらないはずなのに、僕の空しいだけの笑顔とは違う。

僕にとってどうでも良かった彼が、僕の中で特別なものへと変わった。

複雑な感情など判らない。

でも、彼はあなたを泣かせた。

それだけが確実に僕の中で渦を巻く。

怒って、いるのだろうか。

その渦が、今までほとんど気付かなかった小さな突っかかりとなっていたものの存在を、だんだん主張させ始める。

そうなるともう止められない。

彼でも、ナルトでも、カカシ上忍でも、ヤマト隊長でも、誰でもなくて。

僕に、僕にも、僕だけに、もっと、もっと。



あなたの心からの笑顔を。








 「ねぇサイさんってちょっとサスケ君に似てない?」

あなたの友人が言った言葉は、なんとも複雑で難解で重たい言葉。
















 「……サクラ?」

 「あらサイ、また会ったわねー」

ふわりと微笑んでみせるあなたに一瞬目を奪われる。

サクラはこの前のように図書館の椅子に腰掛けて、本を開いていた。机にはたくさんの巻物や書物が置いてあった。

 「ちょっと待っててね、今どけるから」

そう言って机の上の巻物と書物を自分の左側に全て寄せ、机の右側をきれいにした。

 「…サイ?あなたも座るでしょ?」

意識が散漫になっていた僕に、サクラは首をかしげて自分の右隣の席を指差した。

ここに座れということだろうか。隣…座ってもいいのだろうか。

のそのそと椅子を引いてそこに腰を下ろすと、やわらかくて甘い香りが漂ってきた。

どこかで嗅いだにおいだと思っていると、それは隣の彼女からで、そういえば以前の任務でも何度かこの香りが

鼻腔をくすぐったことを思い出して、その時は何ともなかったのに、今はやたらと血の流れが速くなるような感じに囚われた。

僕も手に持っていた本を広げて眺めるけど、隣の息遣いやページをめくる音が気になって、

何度も彼女の横顔を視界の端にそっと捕らえて、正直僕は本の内容なんて全然頭に入ってこなかった。

気付けばもう日が傾き始めていて、何だか視線を感じて今日何度目かになるが隣をちらりと見てみると、

頬杖を付いている彼女と目が合って驚いた。

 「サイ、私はもう帰るけど、サイはどうする?本全部読み終わった?」

 「いや……借りて帰るよ。…僕も帰り…一緒しても…?」

 「勿論いいわよ」

見ると机の上には最初にあった書物や巻物が全て無くなって、本棚へ片付けられていた。

もしかして、僕が読み終わるのを待っていてくれた…?目が合うまで、声も掛けずに?

自惚れかもしれないけどそう思うと嬉しくて、開いていた本を閉じる時に迂闊にもほんの少し紙で指を切ってしまった。

幸い彼女には気付かれなかったけれど。





二人で並んで何気ない会話をしながら帰路に着く。

サクラは相変わらずよく喋る。

うるさいのはあんまり得意じゃないんだけど、でも僕はその声を聞いているのは苦にならなかった。

彼女の表情のひとつひとつに僕は反応して、心中は色んな意味で穏やかじゃない。

それぞれの家の方向に分かれなければならない所まで来て、僕は少し残念に思いながらも手を上げて別れを言った。

 「それじゃ…僕はこっちだから…」

 「…うん、また、ね…」

サクラも手を振って答えて、それを確認してからゆっくりと彼女に背を向け、一歩踏み出す。

 「…っサ…っ!!」

 「!!?」

突然背後に抵抗の力を受けて、前に出した足は半歩も進まず逆に後ろへ半歩下がった。

何が起こったのかと振り返って見れば、サクラが僕の袖を引っ張っていた。

 「サクラ…?どうし…!?」

問いながら視線をサクラの顔へと移すと、その表情はひどく悲しく歪められ、何かを必死に掴まえようとするみたいに目は見開かれていて、

そんな彼女の姿に僕は一瞬息が止まった。

 「あ…ごめ…」

僕の袖を掴んだまま、彼女は目を伏せる。

 「…あの人の面影が…サイに重なって見えてしまったの。…離れていっちゃうと思って…怖くて…。…御免なさい…」

そう言って僕の袖を掴む小さな指は離れて行く。


彼女は誰を呼び止めたかったのだろう。あの後に紡がれるはずだった名前は一体どちらだったのだろう。

きっとそれは“サイ”ではなくて“サスケ”。


僕は離れきってしまう前に彼女の指を捕まえた。

 「…サイ?」

掴んだ手に力がこもる。


どうしてあなたはそんな顔をしてまで彼を追う?その翡翠の瞳からいつ涙が零れ出てもおかしくはないというのに。

切った指先が痛む。ドクドクと血が脈打つのがやけにリアルだ。



似ているというのなら


僕では駄目なのだろうか。



 「僕なら彼なんかよりずっとあなたを大切にする。あなたから離れない…!あなたをっ…一人にしない…っ!!」

気が付けば手を強く引いて、彼女を腕の中に閉じ込め、叫んでいた。


無意識だなんて、どうかしている。

自分が判らない。

複雑な感情なんて、僕は知らない。

ただ苦しくて、切なくて、もどかしくて


彼女の桃色に染められた僕の目の前の世界が、彼女の華奢な身体のぬくもりと脳に充満する香りが、僕を侵していく。


最初は身代わりでもいい。

ただ恋しくて、愛しくて、笑ってほしくて

だからお願いだ。

せめてそんな風に悲しい顔をしないで。

あなたが僕だけに笑ってくれるまで待つから。


 「僕では駄目…かな?」

 「サ…イ…」


ただ苦しくて、恋しくて、切なくて、愛しくて、もどかしくて、笑ってほしくて

こんな感情は、生まれて初めてだ。




 「サクラが、好きなんだ」




ああ僕のこの気持ちは…彼女が好きということなんだ。

分かっている。彼女の心はまだ彼のものだということくらい。


 「だから泣かないで…笑顔を見せて。そしていつか僕だけにあなたの笑顔を向けて欲しい」


サクラを腕の中から開放して、僕は今出来る限りの精一杯で心から笑った。

そして手を振って、僕の帰り道を歩き始める。


 「サイ…、ありがとう」


僕の振り返りざまにちらりと見せた、彼女の真っ赤な顔に浮かんた一生懸命の笑顔は、とてもささやかでとても愛らしかった。





あなたにも、僕のこの気持ちにもまだ出会ったばかりなんだ。


だからいつかあなたのたくさんの色んな笑顔を見られるように、これからはきっともっと歩み寄って行くから。


ナルトにも、カカシ上忍にも、ヤマト隊長にも、他の誰にも


彼にも


自分にも


絶対に負けない。負けたくない。


覚悟しておいて。






そうだね、まずは愛しく笑うあなたを描こうか。






END

はい。突発も突発サイサク小説。何気にサスサク。片思いばっかりー(笑)。
にしても、なんでこう…マイナー路線が好きなんだろう管理人は(苦笑)。
前々からサイとサスケは似ているとは思ってはいたものの、
流石にいのがサイのことをサスケに似ていると言った瞬間から「何だ、私のは妄想じゃなかったんだ」
というわけで脳内に沸いたサイサク妄想(笑)。
でも、自分自身あんまりサイサク作品を見たことない上に、資料もなく、サイの話し方が一向に判らない中
勢いだけで書きあげました。
もう何が何だかー(汗)。とりあえずサイがサクラへの気持ちに気付いたよって話です(まとめた!)


<2007,01,13>