恋愛に齢の差なんて関係ないと思ってた


けどそんなことは決してない


だって俺はオトナで


愛しい君はまだコドモで


俺は君の隣にいるために、やっぱりオトナのフリをする








恋愛に齢の差なんて関係ないと思ってた


だけどそんなはずはない


だって私はコドモで


大好きなあなたは私よりずっとオトナで


だからあなたの隣にいるために、やっぱりコドモのフリをする











オトナコドモの距離の測り方










爽やかな風が頬をなで、サクラ色の髪を弄ぶ。

今日は久し振りにサクラとデートだ。

どこに行くわけでもなく、ただ二人で手を繋いでぶらぶらと歩く。

最近はサクラ自身もどんどん力をつけ、お互い任務が更に忙しくなって、

今日のように朝からゆっくりと二人で過ごす時間などあまりとれなくなっていた。

少し会っていないうちに、サクラはまた一段と可愛くなった。

いや、近頃では綺麗になったと言う方が正しいだろう。

これくらいの齢の女の子は成長が速いというけど、まさにその通りだと思う。

正直、会う度に美しくなるこの愛しい少女に、俺はどうしたらいいのか戸惑っていた。

彼女はいつまでコドモで、

俺はいつまでオトナでいればいいんだろう?

 「ねぇ先生」

隣を歩いていたサクラが俺に声と視線を投げかける。

 「んー?」

 「今日どうしよっか?先生行きたい所とかないの?」

 「いんや、別に。サクラの好きな所に行けばいいよ」

俺の答えに納得がいかないらしく、サクラは頬を膨らませる。そんな仕草でさえ可愛いと思う。

 「えー!…じゃあ先生ン家行こうよ!折角丸1日休みなんだし、二人でゆっくりしてよう?」

…一瞬、俺の思考回路が停止する。

少しの間の後、俺は答えた。

 「…だーめ」

 「何でよー?」

 「……………汚いから…」

 「はい嘘!!散らかる程物ないでしょ!?」

確かに。

そして彼女は、仮に散らかっていても片付けてやると付け足した。

どうやら今回も俺がオトナになるより他はないらしい。

 「……………」

サクラに聞こえないくらいの小さな溜息をひとつ吐いて、俺達は今日のデート場所へと向かった。
















カカシ先生の家には本当に物が無い。もしかしたら必要最低限の物でさえも存在しない。

だけれどそこには、先生のにおいで溢れかえっていると思うの。

先生はあまり家で過ごすこともないと言うけれど、でもここは、私の1番好きな場所。

 「お邪魔します」

 「はい、いらっしゃい」

私はいつも通り小さな背の低いテーブルの前に座る。

そして先生もいつも通りのものを運んできてくれる。

 「はいサクラ」

 「ありがとう。…急に来たのによくあったね」

運ばれたのはコーヒーと紅茶。勿論私が紅茶で先生がコーヒー。

しかも先生のはとびきり苦いの!!やっぱり先生はオトナだわ。

 「そりゃあ、俺の可愛いサクラがいつ来てもいいようにはしているつもり」

 「……ありがとう」

嬉さと恥ずかしさで顔が熱くなる。

…でもね先生。私ミルクがあればだけど、コーヒーも飲めるようになったのよ?

少しは先生と同じものを共有できるようになったんだから!

 「先生のコーヒー、ちょっと飲んでみてもいい?」

 「サクラには無理だと思うけど…」

苦笑しながら先生は私にカップをよこす。

湯気の立ち上るそれを少し口に含むと、…やっぱりものすごく苦くて、私はまだコドモなんだと思う。

あまりの苦味に顔をしかめていると、先生は優しく頭を撫でてくれた。

先生のその所作が嬉しい反面、コドモ扱いをされて、なんだか齢の差に泣きたくなってくる。

私はいつまでコドモでいればいいんだろう?










俺が頭を撫でてやると、なんだかサクラは腑に落ちないような顔をした。

 「どうしたサクラ?」

 「……カカシ先生ってやっぱりオトナだよね」

 「…は?」

サクラがぼそりと呟いた。

 「先生はオトナで、私はコドモだって言ったの…」

そう言ったサクラは、切なそうで、驚く程に大人びた表情をしていた。

違うよサクラ。愛しいお前を前にして、俺はオトナなんかじゃない。

ただ、まだコドモのお前には、オトナの俺じゃなきゃ傍にいさせてもらえないだろ?

本当の俺は、“オトコ”なんだから。








今私、絶対おかしなこと言ったわ。

だってほら、先生が悲しそうにこっちを見てる。

 「ごめんなさい先生。何でもないの」

ふわりと微笑んでみせる。

コドモにオトナが子供扱いするのは当然でしょう?

オトナで優しい先生が好きなのに、私は他に何を求めてるっていうの?

大好きなオトナのあなたの傍にいるのは、コドモの私で丁度いい。

私はまだ完全にオトナじゃないんだから。

でもね、私はコドモだけど、

ちゃんと“オンナ”なのよ。








何でもないって顔してないじゃないの。

サクラの笑顔が本物かどうか、俺が判らないワケないでしょ。

 「サクラ、ちゃんと言って」

俺はまた何かしでかしてしまったのだろうか?

俺はサクラの頬に手を延ばす。そしたら彼女は頬を紅潮させながら、驚いて目を見開いたあと、

嬉しそうに笑って俺の手にサクラのものも重ねた。

そんな彼女に俺はドキリとさせられる。

サクラはコドモだと判ってはいるのに、惹かれてやまないオトコの俺。






大きな先生の手の平は、オンナの私を欲張りにさせる。

先生を困らせたくないの。

今だって私がコドモらしくしていれば、あなたはそうやって、困ったように私を宥める必要なんてなかったでしょう?

でも嬉しかったのも事実。

だからゴメンナサイとダイスキの気持ちを込めて、私も先生の手に触れた。

 「本当に大丈夫。ごめんね先生、心配してくれてありがとう」

私の頬から放した手を、先生はじっと見つめていた。


辛そうなのは、何故?




“…先生に嫌われた…?”




今サクラ、何て言った?


本当に小さな小さな音となって、彼女の口から洩れたその言葉を、俺は聞き逃さなかった。

当の本人も驚いている様子で、でも彼女よりも俺は驚いているに違いない。

なんで?どうして?俺が?サクラを?

 「…サクラ…?」

サクラははじかれたように俯いている顔を上げた。






なんてことを言ってしまったのだろう。

無言でこちらを見つめてくるカカシ先生を、まともに見ることが出来ない。

きっと呆れているもの。

名前を呼ばれてつい見上げれば、先生と視線がぶつかった。

 「ごめんなさ…っ、…ひくっ…ごめんな…さい…!!」

涙がとめどなく溢れだす。

もうこんな迷惑な私は要らない。

コドモのままで、いれば良かった。

少しでもコドモでいることが嫌になったせい。

本当は私、もっと先生に触れて欲しかったのね。

好きな人だもん、当たり前でしょ?

ああでも、何だかもう駄目な気がするわ。





涙で濡れるサクラは綺麗で…でも俺はそれどころじゃない。

サクラが謝る理由すら判らない。

抱き締めてもいいのだろうか?

どうして彼女が泣くのか、さっきの言葉は何だったのか。

それが判らない情けない俺だから。

でもこれは卑怯?

サクラが泣いているからというのは口実かもしれなくて、

本当はずっと触れたかったから。

ああでも、もう駄目だ。

愛しい彼女が泣いているのに、この衝動を抑える必要があるというのなら、

俺はオトナを演じきれない。





突然視界が狭まり、息苦しくなる。

いつも温度の低いあなたの身体は、いつもより温かくて。

カカシ先生が私を抱き締めていた。

私はそれに数秒かけて気が付いた。

だってあなたは…私を嫌いになったんじゃなかったの?

こんなことされたら、私の中のなけなしのコドモが…全部崩れ去ってしまう。

 「…先…生…?」

 「サクラ…俺はお前が好きなんだ…泣くなよ…」

 「……っ…先生、私のこと…嫌いじゃないの…?」

 「なんでそうなるの?」

 「…だって…じゃあ…どうしてあんなに辛そうだったの…?…困ってたの…?」





サクラの身体は思っていたよりずっとオンナらしくて、

髪からの優しい香りに俺は驚く。

コドモだと思っていた彼女は、いつの間にかオンナになっていた。

高鳴る心臓に上がる体温を、気付かれはしなかっただろうか。

 「…だって…じゃあ…どうしてあんなに辛そうだったの…?…困ってたの…?」

辛そう…?困ってた…?

ああ、なんだ…そういう事か…。

サクラのセリフで俺は彼女の涙の理由を理解した。

俺は顔に出るくらいにサクラが愛しいらしい。

そしてそんな俺の些細な表情の変化を、サクラが気にしたということが嬉しい。

彼女にこうして触れてしまえば、もう俺は自分自身を止められない。

だからもう…言ってしまおう。

 「…俺が困ってたのは、ずっとこうしてサクラに触れたかったから。

  辛かったのは、それをずっと我慢してたから。」

サクラが目を見開いた。




先生は私よりずっとオトナの人だから、

コドモの私はコドモらしく振舞うのがいいんだと思ってた。

でも私は何か間違っていた…?

こんな難しい問題、解いたことないわ。

でも先生に抱き締められた時、

その大きくて厚い胸板と、

どことなくゴツゴツした感じが私を驚かせた。

先生は、オトナだけどオトコなんだ…って。

でも何より驚いたのは、先生のセリフ。

 「…俺が困ってたのは、ずっとこうしてサクラに触れたかったから。辛かったのは、それをずっと我慢してたから。」

ああ……私だけじゃなかったんだ。

そうか、だから辛そうだったのね。困らせてたのね。

 「…先生も…なの?」

先生が目を見開いた。






 「俺はサクラが思ってる程オトナじゃない。ホントは俺だってオトコっていう狼だよ」

 「私は先生が思ってる程コドモじゃない。ホントはもっと触れて欲しいって考えてる」

 「好きだから、傷つけないように大切にしたかった」

 「好きだから、先生が好きになった時の私でいたかった」

 「どんなサクラもずっと愛してる」

 「どんな先生もずっと大好き」






お互いがお互いとの距離を大事にしすぎて、何も見えていなかった。

俺もサクラも馬鹿だね。



今あるものを大事にしすぎて、本当のものが見えていなかった。

私も先生も馬鹿みたい。












 「ねぇ先生?」

サクラが俺の膝の上で問いかける。

 「んー?」

 「私ね、先生のはまだちょっと無理だったけど、カフェオレは飲めるようになったのよ?」

 「あー…だから今日、いきなり俺のコーヒーが飲みたいって言ったわけね…」

 「だってちょっとでも多く先生と同じものを共有したかったんだもん…」

すると先生は嬉しそうに微笑んで、私を抱え直すようにして抱き寄せた。

 「しょーがないなー」

そう言って俺は、サクラの唇に触れるだけのキスを送った。

 「!!」

微かな苦いコーヒーの香りと、先生の甘いキスに私の頬は真っ赤に染まる。

 「やっぱり苦い?」

 「……判んないわよ…」












手を繋ぐこと


キスをすること


抱き合うこと


ひとつずつ、進んでいこう


君と二人で











                     END



初カカサク小説です。意味不明です。
無駄に縦に長い文章になっちゃいました…(滝汗)。
微シリアスなようで微甘。
そしてカカサクにおいて、こんな葛藤あるんだろうかと疑問に思いつつ書きました。
多分ないだろうなぁ…カカシだし(笑)。
カカシを出すとどうしても裏か痛い系シリアスに走りそうになります(爆)。我慢我慢(笑)。
大したことじゃないんですが、カカシとサクラの視点の入れ替わり時の空白を、だんだん狭めて、
最終的には判りにくいと思いつつも混同させました。
2人の距離感を少しずつ縮めていくイメージです(微妙)。
気付いた方、いらっしゃると嬉しいなぁ…。
ここまで読んで下さった方、有難うございました!