愛しい君の

美しい髪の色は

何色なんていう

一言でなんて表現出来ない

それはまさしく君だけの色




君色の髪









ある日の昼下がり、カカシの家にはその家の主からすれば

まだまだ幼いであろう主の恋人、サクラが遊びに来ていた。

しかしいつもの甘い雰囲気など、その日は持ち合わせていなかった。


 「先生、髪切ってちょうだい?」


 「は?俺の髪?」


 「違うわよ。わ・た・しの髪」


 「………」


そう言うサクラの手には髪を切るためのはさみ。

刃の部分を手に持って、その手から覘くはさみの柄をカカシに差し出している。

ふわりと微笑むサクラと小さく驚くカカシ



2年前の中忍試験の折、戦闘によってばっさりと切られてしまったサクラの髪は、この2年のうちにもうすっかり元の長さにまで伸びていた。

繋ぎ場所を断たれて風に舞い上がった髪は、まるで桜の花びらが舞うようだった。

その時芽吹き始めた彼女の決意は、今では満開に咲き誇り、そしてこれからも散ることはない。


 「サクラ、やっぱり切るの?っていうか俺が?」

 「だって短い方が動きやすいんだもん。先生に切ってもらいたいのは…私が勝手に切ると先生が悲しむから」


2年前にボロボロの姿で試験から帰って来たサクラを見て、カカシの目がわずかに揺らいだのを彼女は見逃してはいなかった。

そして久々に彼がサクラに触れた最初の場所は、どこか物足りなげに所在していた彼女の髪。

その時サクラは気付いてしまった。

カカシは…自分の髪が好きだったのだと…。

それからサクラは、今はまだ会えないアノ人の為に伸ばした髪を、何故かすんなりと…今度はカカシの為に伸ばそうと思った。

今から思えば、その時から既にサクラの心はカカシを見ていたのかもしれない。



 「サクラ、お前知ってたの…?俺がお前の髪が好きだって」

そう言ってカカシはサクラの髪をやんわりと手櫛で梳く。

 「うん、当たり前じゃない。先生ってばしょっちゅう髪に触ろうとするんだもん」

──“こんなふうに”──くすりと笑みをこぼして言う。

本当はあの時気付いていたけれど

それは彼女だけの秘密。

 「そりゃあ、もういっぺんでも誰かにこの髪傷つけられるくらいなら、俺が先に傷つけるよ。…髪でなくてもそうするし。

  けどそんな事急に言い出すなんて…何かあったのか?」

何かってほどでもない。ただサクラは胸騒ぎがしていた。

近い内に大きな任務に就くかもしれない…と。

そうでなくてもこの先、何かの任務で再び長い髪を失ってしまう可能性は十分にあるし、

それどころか未だ実力が備わりきれていないサクラには、2年前と同じように

髪があだとなって命の危険に晒されることもあるかもしれない。

だから、今度こそカカシを悲しませることのないようにしたいのだ。

何も言わないサクラから彼女の意を汲み取ったのか、

カカシはサクラが手にしているはさみをおもむろに受け取った。

 「サクラ、一つ頼んでいいか?」

 「なぁに?先生が頼み事なんて珍しいわね」

 「ん、あのさ…切った髪を一房俺にくれない?」

サクラの背中を押して洗面所へと向かわせながら、カカシが言った。

サクラはちらりとカカシに目線だけを遣って、不思議そうにしている。

 「お守り」

 「…は?」

一言言い放つカカシの言葉は未だサクラには理解出来ない。

 「髪は女の命っていうでショ?女の髪には想いが宿るとも言うし…。サクラの髪をお守りみたいにして持ってれば、

  サクラが危ない目に遭っても判るような気がするし、それに何より、俺達がいつでも繋がっていられるみたいだと思わないか?」

そう言われたサクラは一度目を丸くしたかと思うと、ふわりと照れくさそうに笑った。

 「……もう…先生ったら女の人みたい。…でも、…それもいいかもしれないわね」

頬を染めて、名残惜しそうに自分の髪を指に絡めているサクラの姿が洗面台の鏡に映る。

鏡越しにサクラの背後に立つカカシと目が合うと、サクラの手に絡まっていた髪がカカシの手に渡った。




   シャキン



   パサ…



   シャキン



   パサ……




はさみの音と髪の落ちるかすかな音の他には、互いの呼吸音だけが洗面所に響く。

そんな静寂の中、最後の一房を切り終えるとカカシは落ちきれていない髪を取り除くべく、サクラの髪に指を通していく。

細やかな髪はカカシの指の障害をものともせずに、重力に従って新聞紙を敷いた床へと静かに流れ落ちた。

伸ばされた髪と同じ3年間分の二人の思い出が失われたようで、なんとも言えない気持ちになる。

その3年の間にカカシとサクラの想いは通じ合ったのだ。



 (何だか女々しいなぁ俺。…サクラのこととなると)

カカシは苦笑を洩らしながら自分の手の平から滑り落ちようとする最後の桜色の髪を掴んだ。

その髪を和紙に包んで軽く唇を落とすと、どこから持ってきたのか

大きな手の平にすっぽりと収まるくらいの小さな巾着袋に、それを丁寧にしまった。

サクラはその流れるような動作を目で追って、最終的にカカシの手にある巾着袋に視点が定まり、そこから目を離さずに言った。

 「ねぇ先生、私…強くなれるかな…?…髪を切らなくてもいいくらいに」

 「ああ、次にまた同じ位髪が伸びる頃にはサクラはもっともっと強くなって、もう髪なんて切る必要のない位強くなってるよ」

カカシはサクラの髪を指先でサラリと払う。

 「私…もう護られるだけなんて嫌。強くなりたい。…出来ることなら、私も先生を護れるくらいに…」

 「んーそれはどうだろうねぇ。俺も男としてはサクラに護られるより護りたいからね」

苦笑しながらカカシが言った。ここはあまり譲れない。

 「じゃあ、カカシ先生と同じ場所で戦いたい。それで先生が怪我したらすぐに駆けつけて、それから私が手当てをするの」

振り返ってまっすぐにカカシを見つめて言うサクラの目からは、その名の通り、花咲く意志の強さが覘く。


それは大切な人を護りたいという優しい想い。


そんな彼女らしさにカカシの胸はいっぱいになる。

カカシは懐かしく見え隠れする彼女の白い首筋に浅く歯を立て、小さな悲鳴を上げた桃色の唇に啄ばむように口づけた。

ほんのり色づく頬と、物言いたげなサクラの視線を受け止めながら、カカシは微笑んだ。


 「早くここまでおいでサクラ。こんなのじゃなくて、もっとたくさん繋がっていられるところまで。

  ずっと待ってる。それまで俺が絶対に護るから…。」













その数日後、サクラは砂隠れの里へと任務に向かうことになる。

かつての少女は見違えるほど凛々しく、どんなに傷だらけになっても戦った。

遠くで戦う彼の懐には、首から下げた長い紐のついた巾着袋があった。

そして共に戦った者の死という深い悲しみとひどい疲れの中で、彼女はまたひとつ強くなる。











愛しい君の


美しい髪の色は


何色なんていう


一言でなんて表現出来ない


それはまさしく君だけのいろ



そして君を想う俺だけのもの







END



ちょ…すごい!!終わった!!!(爆)
ずっと前に書き初めて、ずっと前から放置していた作品です(汗)。
ぶっちゃけ完成諦めてました(殴)。
やっぱりあれだ、テスト前はよく筆が進むvv(ちょっと待て)
これはNARUTOの第2部2〜3巻辺りで、綱手とサクラの回想シーンでのサクラの髪が長かったのを見て、
ちょうど自分も髪を切りたかったっていうのもあって、書き始めたものでした。
好きな人に自分の髪を切ってもらうのっていいなぁって思います(にやり)。
結局管理人もサクラと同じくらい短く切って、今ではもう結べる位には伸びました(死)。
ちょっとシリアス風に書きましたが、あくまで当サイト比ですので(笑)。

<06,05,15>