空気が少し冷え始めたころ。

 

季節の変わり始める時。

 

あの香りが風に乗ってやってくる。

 

 

キンモクセイの

                管理人 流亜

 

 

 「あ…キンモクセイ……」

ベランダで洗濯物を干していたミリアリアが、ぽつりと呟いた。

 「え?」

部屋で雑誌を読んでいたディアッカはページをめくっている手をとめ、ミリアリアの背中へ目を向けた。

 「今ね、風に乗ってキンモクセイの香りがしたの」

ミリアリアが振り返って言いながら、べランダの戸がカラリと音を立てた。

 「何?ミリィ、キンモクセイ好きなの?」

彼女との付き合いもそう短くはないというのに、まだそんなことも知らなかったのかと多少ショックを受けながら、

ディアッカは訊ねた。

 「ううん、その逆。あんまり好きじゃないのよね…」

 「珍しいね、ミリィに嫌いな花があるなんて」

ミリアリアだけじゃなく、世の中の女性で花が嫌いな人はそうそういない。

洗濯物を干し終えたミリアリアが部屋に戻ってきて、ディアッカの横にちょこんと腰をおろした。

 「ちょっとね…香りが強いじゃない?強すぎて時々むせちゃうのよ」

 「ん──…でも俺は好きだよ、キンモクセイ」

 「あんたが?そっちの方が珍しいわよ」

この男に花を愛でる精神があったのかと、ミリアリアは内心思ったがあえて言わなかった。

 「だってさ、キンモクセイの色ってオレンジじゃん?」

 「うん。それがどうかしたの?」

ディアッカがニヤリと悪戯っぽい笑みを作って口を開いた。

 「今日のミリィの下着、オレンジ色でしょ?」

 「──!!何であんたがそんなこと知ってるのよ!!」

即座にミリアリアがディアッカの頬をつねリ上げる。かなり痛そうな攻撃にも関わらず、

それでも幸せそうな顔をするこの男にミリアリアは心底呆れかえり、怒る気も失せてしまった。

 「で?まさか本当にそれだけなの?」

ミリアリアが先ほどの続きを促す。

 「いや、それにさ、あの甘い香りとか、小ささとかがすげー可愛いだろ?」

 「…は?」

よもやこの大の男、しかも軍人の彼の口からそんなセリフが聞けようとは。

思わずミリアリアの表情が間の抜けたものとなる。

 「……まあ…確かに可愛い…のかもしれないけど……」

 「うん。俺大好きだよ、アレ」

 「………」

 「ミリィみたいで」

 「……っ!?」

あぁもうこの男はなんてことを言い出すのだろうか。

ディアッカはいつだってこんな風に楽しそうに、尚且ついたって真面目に言う。恥ずかしくなるのはミリアリアばかりだ。

けれども、ほんの少しの嬉しさもミリアリアは感じてしまう。

正直悔しいと思う。だからこそ、こういう時彼女は決してその嬉しさを顔には出さない。

しかしそれすらも、ディアッカにはお見通しなのだ。

そして恥ずかしさと嬉しさに頬をほんのり染めたミリアリアの耳元に頬を寄せて、

ディアッカは囁いた。

 

 

“ねぇミリィ…キンモクセイは好き?”

 

 

END

 

100hit有難うございました。

こちらはMIRU様のみお持ち帰り可です。

文短い…(滝汗)。どうでしょう…甘く…なってますかね?

ちょっとばかし季節に合わせてみました。というか最近管理人の登校時、

毎朝キンモクセイのにおいがしてまして、そんな中1キロ近く歩くもんですから

ついネタにしてしまいました(笑)。

因みに管理人はミリアリアと同じく、キンモクセイは苦手です(苦笑)。

 

2005/10/11

2006/12/05
済みません、勝手ながらあまりにも拙かったため、修正を加えさせて頂きました。