「離れてなんかやらない」


そっと、通路をのぞき見る。
右、左、右。異常なし。
敵は今のところ、ココには現れるような気配もない。

−−今がチャーンス!−−

そう、思った彼女に罪はない。


時を遡ること1時間前、ミリアリアはのんびりアークエンジェルのブリッジで待機していた。
周りのクルー達は彼女を誘ったが断固として断ったのだ。
例え警戒する必要のないプラントであっても、プラント政府から特別に人が派遣され、アプリリウスワン内を行動できる許可をもらえたとしても彼女はアークエンジェルから一歩たりとも踏み出るつもりはなかった。
出たら最後、あの男に捕まってしまう。
それだけはなんとしても避けなくてはならない。
本当はプラント内部に興味はあった。
元、報道カメラマンの血が騒ぐと云うべきか、本来の好奇心が疼くと云うべきか。けれどもラクス・クラインのいるアプリリウスワンに彼女の護衛任務にあたっている特務隊のジュール隊がいるかぎり安易に出かけることは避けなくてはならない。
ミリアリアが頑なに拒む理由を察したノイマンやチャンドラなどは面白そうな笑みを浮かべていたがそれ以上、彼女を無理矢理誘うことはなく、笑って出かけて行った。
思えば、こんな事になるくらいなら一緒に出かけた方が遙かに安全だったのではないかと思える。何故なら彼女は今、一番足を踏み入れてはならないプラント最高評議会の建物へと足を運ばねばならないのだから。
頑なに拒んでまでアークエンジェルを降りずにいたミリアリアが何故そんな事になったかというと艦長のマリュー・ラミアスに頼まれごとをお願いされたからだ。
頼まれごとはアークエンジェル内に置いてきたタリア・グラディスの息子へ渡す予定の品物を持ってきて欲しいというもので困ってる人を見過ごせないミリアリアはやむなく引き受けたのだ。
最初は他の誰かを・・と考えたが、艦内で手が空いている人間はミリアリアだけ。まさか副艦長のアマギ一尉にお使いをお願いするわけにもいかない。
本来ならば後日正式に会う予定だったタリアの息子との面会がラクスの計らいで評議会内で会うことになるとは露程も思ってなかったおかげで、ミリアリアまで評議会に引っ張りだされたことに少々、いや、かなりラクスを恨めしく思った。

辺りを警戒しつつプラント内部へ続くロビーに入る。守衛の兵士に所属と名前を名乗ると話が既に通っていたようで評議会ビルに繋がる直通のエレベーターに案内される。
エレベーターの前には黒服の男性が立っていた。近づくミリアリア達に彼はにこやかに笑って挨拶をした。

「はじめまして、ミス・ハウ。アーサー・トラインです」
「はじめましてミスター・トライン」

柔和な面立ちのトラインにミリアリアは少しだけ緊張を解いた。
頼まれごととはいえ、さすがに一人でプラントに足を踏み入れるのは勇気がいったのだ。彼に親しみやすさを覚えて、この人物ならば頼まれ物を渡してマリューに届けてもらっても大丈夫だと思った。

「あの、これ、ラミアス艦長に・・・」
「は? いえいえ、ミス・ハウを議長室に案内するように仰せつかってますから、どうぞこちらへ」
「あ、ですから、私、困るんです」
「大丈夫です。ココでは誰も貴女を脅かすようなことはないですから」

ミリアリアの困惑もなんのその、トラインはにこやかな笑顔でエレベーターへと彼女を促す。

”もしかして、この人、空気読めない人なんじゃないかしら・・・それとも判っていてそんな振りをしてるのかしら?”

何人ものコーディネイター、それもザフトの軍人をみてきたが随分、毛色の違うタイプに彼女は戸惑いを隠せない。
イザークは見た目の冷たい印象とは違って随分熱い直情型の性格だが型にはまった軍人のように思える。アスランだって普段は穏やかだが軍服を纏うと途端に表情が引き締まり厳しい雰囲気を漂わせる。そしてミリアリアが一番会いたくない人物なんて皮肉気な口調と辛辣さを隠そうともしない。どれも一癖も二癖もある人間ばかりだ。けれど目の前の人物はなんとも平凡さの漂う軍人で軍服を着てなければそうは思わないだろう。
すっかりトラインのテンポに丸め込まれた形となったミリアリアは仕方なくエレベーターに足を進み入れた。まさかミリアリアの事情を見抜いてのラクスの人選とは端から思っていない。
エレベーターが下り始めてしばらくするとプラント内部が見えてきた。
壁全面が強化ガラスのおかげでプラント内部の全景が見える。美しい風景にミリアリアは感嘆の声を漏らした。

「とっても綺麗・・・」
「でしょう。この調和のとれた景観はプラント市民の誇りです」

トラインが誇らしげに語る姿に、ふと思い出した。

『プラントにも海があって緑が溢れて。またオーブとは違ってとても良いところだよ』

あの時の彼もやはり誇らしげだった。
彼はこの美しい故郷を守るためにザフトに戻ったのだと、改めて思った。



幾重にも張り巡らされた厳重な警備をトラインは挨拶1つでくぐり抜ける。普通、こういう事は毎回IDカードの認証とかがあるのが当たり前なのに首を傾げていると襟のザフト章がIDカード代わりでゲートをくぐる際に自動にチェックされていると知り、なるほどと感心した。しかも常時、評議会に出入りできる黒服の副官クラスは数が限られ、およそ30人ほどが出入りし、階級と所属部署によって入室できる範囲が決まっているという。ならば、彼女を先導するトラインは見た目は柔和で頼りなさげなではあるがエリート軍人なのだ。

”じゃぁ、ココに出入りしてるアイツもエリートの一員に戻ったんだ”

元々、エリートの彼が先の大戦でザフトから離脱し、アークエンジェルに乗り込んだせいで降格してしまったわけだが、実力はエースパイロット級だ。彼の栄進に喜びを覚えつつも随分遠い存在になったのだと淋しさも感じる。
本当は会いたくないというより、会ってしまったら彼との距離を感じて悲しい気持ちになりそうで認めたくなかったのだ。けれど、ここまで来てしまったからには覚悟をつけるしかない。
彼にあったら冷静に対応するのだとミリアリアは自身に言い聞かせた。

「議長閣下、ミス・ハウをお連れしました」
「どうぞ、中へ」

トラインに促されて扉の中へ入ると広い空間に1つ大きな執務机があり、その斜め前に来客用と思われる応接セットが置かれていた。そこにマリューの姿と一人の少年が座っており、他は誰もいなかった。

「ミリアリアさん、お久しぶりですわね」

丈がくるぶし近くまである紺地のワンピース姿のラクスは随分大人びて見えた。けれど彼女のもつ温かな笑みはプラントの元首になっても変わらずにいた。

「えぇ、本当に久しぶり。元気そうで良かったわ・・・ところでココにはラクスと艦長だけなの?」

首を傾げるミリアリアにラクスは微笑んで答えた。

「はい。・・・あまり刺激するのも如何かと思いまして・・・。私とマリューさんだけに限定させていただきました」

その言葉にミリアリアは合点がついたように頷いた。
ただでさえ唯一の肉親である母親を亡くしたばかりだ。多人数の大人に囲まれてしまっては緊張を解くこともできないに違いない。
グラディス艦長の息子とマリューが向かい合って座る応接ソファにミリアリアはゆっくり近づくと、頼まれていた品を封筒から取り出して少年の前にゆっくりと置いた。それを受けてマリューが少年へと語りはじめる。

「これに貴女のお母様が映っています。私たちは敵同士でしたが誰よりも互いを理解し尊敬していました」

その言葉に少年は電子アルバムに少し視線を向ける。
死んだ瞳にミリアリアは彼の深い悲しみに共感する。唐突に大事な物を奪われる苦しみは覚えがある。いや、この部屋にいる人間全員が身近に大事な人を奪われた。
そんな悲しい思いをまだ幼い少年が味わってしまっていることが酷く痛ましく、また戦争の一端にいた我が身を激しく責めずにはいられなかった。
マリューが少年の横に席を移り、電子アルバムを起動する。
立体パネルから写真が現れ、グラディス艦長とマリューが仲良く二人並んでいた。モルゲンレーテのジャケットを纏ったマリューの姿とザフトの白服を纏ったグラディスはとても仲良さげに微笑んでいる。

「これはミネルバがオーブに停泊した時の写真よ。・・・地球に落下するユニウスセブンを壊した時に出来た戦艦の損傷を修理するためにお手伝いをしたのが私だったの」

判りやすくゆっくりと語りかけながら、パネルのボタンを1つづつ押していく。

「あなたのお母様はあなたのことを私にも話してくれたわ。息子が1人いるって。あなたを守る為に軍人になったとも教えてくれたわ・・・優しい、とても素敵なお母様ね」

その言葉にパネルに向けられていた少年の顔がマリューに向けられた。

「ママはボクのこと、いらないって思ってたんじゃなかったの・・・?」
「どうして、そう思うの?」
「だって、だって、ボクの所に戻ってこないで好きな人の所へ行っちゃったんだって聞いたんだもん!!」

その言葉にマリューは眉をひそめてしまう。
誰がそんな事を少年に伝えたのか。
ラクスも厳しい顔で二人の遣り取りを静観している。
やがてマリューはひそめた眉を元の形に戻して、柔らかい笑みを彼に向けた。

「いらない子なんてこと、ないわ。・・・だって、あなたのお母様は私に大事なお願いをしたのよ。あなたに会って欲しいって。会って私が代わりにあなたのお母様の分まで抱きしめて欲しいと願ったのよ」

ふわりと柔らかい優しい腕が少年の身体に回される。

「だってこんなに愛おしいと思うんですもの」

回された腕にしばらく呆然としていたが少年の目からポロポロと涙がこぼれてきた。言葉以上に雄弁な腕の暖かさにようやく凍てついた心が解けてきたようだ。
マリューの胸に抱かれて泣き崩れる少年にようやくミリアリアは胸をなで下ろすことができた。きっと泣きたくても泣けずに苦しんでいたに違いない。
時に人の体温は傷ついた心を癒し慰めてくれる。
それを数年前に身を以て知ってるからこそ少年が今、ようやく緊張を解いて素直な気持ちで母の死を悲しんでいることに安堵した。
ラクスをみると彼女も柔らかい笑みをたたえている。

「じゃぁ、ラクス。私はこれでアークエンジェルに戻るわ」
「もう、ですか? せっかくいらしたんですからもう少しここにいてもよろしいのでは。お茶もお出ししておりませんのに」
「ん、でもブリッジに一人副長を残したままだしね。また、ゆっくりできるときにお茶をごちそうになるわ」

その言葉に残念そうながらも無理強いは良くないと思ったのかラクスは素直に誘いの手を退いた。

「・・・あの子、これからどうなるの? 父親は?」

ミリアリアの言葉にラクスは眉を曇らせる。

「彼の父親は先の大戦で亡くなってます。誰も彼の身内にあたる方はいらっしゃいません。・・・ですから孤児院、もしくは里親に引き取られることになるかと・・・」
「そう・・・」

オーブにも彼と同じ境遇の子供がたくさんいる。いや、世界中にたくさんいる。
だからこそ、これ以上、同じ苦しみを味わう子供達が出ないように大人であるミリアリアやラクス達が頑張らねばならないのだ。

「でもマリューさんが来てくださいました。・・・きっと、良い方向に彼は向かうことができると思いますわ」
「そうね」

頷くミリアリアにラクスは面白そうな笑顔を向けた。

「ミリアリアさんも・・・ですわよ?」
「? 何が?」

全く何のことか訳が判らないミリアリアにラクスはくすくすと笑って答えた。

「ディアッカとのことですわ」

その言葉にミリアリアの顔が器用に歪んだ。

「あ、アイツとはもう終わった事であって、・・・今も何かある訳じゃないわよ」

語尾が少し拗ねているように聞こえる様にラクスは笑い堪えるのがやっとだった。どうもこちらは意地が邪魔をして素直になれないようだ。どちらも惹かれ合っているのは一目瞭然なのに。

「でしたら、ディアッカに会うことに警戒なさらなくてもよろしいのでは?」
「そ、それはっ・・・別れた手前、気まずいじゃない」
「そうですか? 私はアスランと婚約しておりましたがお互いに良き友人として今も交友がありますけど?」
「それは、・・・特に何もないからでしょう?」

アスランとの婚約関係は政治的な面と遺伝子的な面から決められたことで、そこに恋愛感情など無かったことは聞いている。

「ではミリアリアさん達は、”何かあった”ということですか?」

”何かあった”と強調して訊ねるラクスにミリアリアは慌てて否定した。

「な! 何もないわよ!!」
「ではよろしいではありませんか」

意味深に微笑むラクスにミリアリアはむくれるしかなかった。
そう、ミリアリアとディアッカの間には何もない。
あったのは互いに譲り合えずに衝突した事実だけだ。
ディアッカの言い分は判る。危険を伴う報道カメラマンに進んで志願した彼女を心配してくれたのも判る。けれど、理解して欲しかった。何故、ミリアリアがこの道を進もうとしたのか判って欲しかった。そして彼がプラントへ戻ってザフトに戻ったこともキチンと話して欲しかった。
なのに話もしてくれず、ただ彼女のやることなすことに反対するだけなんて、そんな関係なら断ち切ってしまった方がマシだと思ったのだ。

「いいのよ。今更話し合ったって何も見出す物なんてないもの」

力弱く呟く彼女にラクスは今までになく厳しい声で問うた。

「それではいつまで経っても平行線でしかありませんわ。お互いを知る努力を諦めてしまったからこそ争いが起こってしまったのではありませんか?」
「それは・・・そうかもしれないけど」
「ミリアリアさんも向かい合うべきです。どんな結果が得られるか判りません。でも、見出す物がないなんてことはありえませんわ。何かしら、そこに結果が見いだせるはずです」

強い言葉にミリアリアは1つ溜息をつくとラクスに苦笑した。

「ラクスって、案外、意地悪なのね」
「あら、そうでしょうか? 本当に意地悪ならばお出迎えにディアッカを遣わしますもの」

口元に手を当てて首を傾げる姿は愛らしいが、云ってる言葉は非常に可愛らしくない。

「・・・ラクス様の過分なるお心遣いに感謝いたします」
「いいえ、どういたしまして」

片方の眉を器用に上げて慇懃に礼を述べるとラクスが澄まし顔で応えた。と、同時にお互いクスクスと笑い合う。

「じゃぁ、またね」
「えぇ、また、お会いしましょう」

その時、ほんの少しだけラクスの瞳が面白そうな色をたたえたことにミリアリアは気が付かなかった。



アークエンジェルへ戻る際もトラインが先導してくれた。
そこで不思議に思ったミリアリアは思い切って訊ねてみた。

「あのぉ・・・ジュール隊の方達は・・・?」
「あぁ、彼らならプラント内に繰り出しているアークエンジェルの方々の護衛ですよ。ヤマト隊長もご同行してたはずです」

「ご存じなかったんですか?」と不思議そうにたずねるトラインにミリアリアは笑って誤魔化すしかなかった。ディアッカに会うとなったら緊張するが会えないと判ったら何処か残念な気もする。
どことなく気落ちしたような彼女を気にするわけでもなくトラインは行きとは違ってウキウキとしながらラクスやキラのことを話題にし続けていた。おそらくミリアリアがキラの友人であると耳にしていたのだろう。とりわけ、キラがプラントに来たときの人目も憚らない二人の再会シーンのラブっぷりを身振り手振りで話してくれる。
そんなトラインをミリアリアは別の人物と重ねて見つめていた。
落ち込む彼女にいつも冗談や笑い話を披露して反対に彼女を怒らせたり叱らせたり。全く違うタイプなのにどことなくお人好しで面倒見よさげな所は似ていると思った。

「じゃ、これで。ここからは1人でも大丈夫です」
「そうですか? ではまたプラントにお越しの際は声をかけてください」
「はい。ありがとうございます」

アークエンジェルに続くドッグの近くでトラインと別れる。
なんだかディアッカのことばかり思い出す羽目になって、ミリアリアは来たときと打って変わってぼんやりと通路を歩いていた。
そう、彼女が何故、これほどまでに警戒をしなくてはならなかったのか、その事をすっかり失念していたのだ。いや、忘れたのではなく、彼はココにはいないと思いこんでいたのだ。彼、本来の性格を思えば、あり得ない話なのに。

「みーつけた」
「!?」

背後から唐突に声がかけられる。
振り返る間もなく耳元で甘く心地よい声が響く。

「ミーリィー、お・ひ・さ・し」

フッと息まで吹きかけられて、背骨にしびれるような感覚が駆け上る。目尻には生理的な涙が軽く滲んだ。

「ディアッカ!!」
「よっ!」

ニコニコと彼女の顔を覗き込むようにディアッカが立っていた。しかも、素早く彼女の腰に腕を回して見事なまでに退路を絶たれてしまっている。

「ちょっと! 何、人の腰に腕をまわしてるんのよ! セクハラよっ」

グググッと力を込めてディアッカを押しのけようと腕を突っぱねるがディアッカにはそよ風ほどの力もないように微動だにしない。しかも突っ張る彼女の腕が気に入らないのか右腕を掴まれてしまう。

「は、放して!」
「い・や・だ」
「ディアッカっ!!」

ミリアリアの強い声に渋々とだが腰に回した腕を外したが掴んだ腕だけは決して放そうとしなかった。

「だって、こうでもしないとミリィは俺の話も聞かずに逃げちゃうだろ?」
「そ、それは・・・でも、もう、話し合うことなんてないじゃない・・・」
「俺はあるよ。それこそ、ミリィと離れていた時間以上に」

真剣な眼差しのディアッカにミリアリアは言葉を失ってしまった。
また、堂々巡りの話し合いをするというのだろうか。互いを傷つけ合うしかなかったあの時間をまた繰り返さなくてはならないのだろうか。
あの当時の苦しさを思い出して黙り込んでしまった彼女にディアッカは再び彼女を引き寄せるとその肩に顔を埋めて大きく息を吐き出した。

「良かった・・・無事でいてくれて。・・・ユニウスセブンが落ちた時はどうしようかと思った・・・」

身体に回された腕がかすかに震えていることにミリアリアは驚いた。

「・・・ディアッカ?」
「俺はオマエがまた泣いてるんじゃないかと思って気が気じゃなかったよ」
「・・・もう、そんな泣き虫じゃないわよ。弱い女の子は卒業したもの」

ディアッカの中のミリアリアは守られるべきひ弱な女の子でしかないのかと、酷く落胆する気持ちが彼女の中に広がる。やはりディアッカの求める女の子ではいられない限り平行線でしかないのだと思っていると思わぬ言葉が彼の口から出てきた。

「オマエはずっと強かったよ。別に弱いなんて思ったこともない。誤解して欲しくないからいうけど、涙を流すだけが泣いてるわけじゃないさ。・・・人がたくさんまた死んで・・・命を大切に思うオマエが悲しくないわけないなんてないだろう?」

断言されてミリアリアはあの時の気持ちを思い出す。
直撃を受けて消失した都市、建物、破片の影響で大規模の災害が巻き起こり高波を受けて水没した海辺の地域。そして地球上の多くの生命が失われていった。
それを静かに写真に納めながらどうして、こんな事になったのかと問い続けた。

「それは・・・そうだけど、でもどちらかと云えば悔しかったわ。助けることもできず、ただカメラにそれを納めることしかできなかったもの」

伝えたい。ただ、それだけを思ってカメラを片手に世界中を飛び回っていた。何も知らされないことはどれほど恐ろしいことか伝えたかった。無知や間違った情報が何を呼び起こすか知って欲しかった。けれど戦争は伝えたいと思う人達の住む世界すら壊していく。伝える先を失ってしまってはジャーナリストになった意味がなくなってしまう。だから再びアークエンジェルに乗り込んだ。
そして今は武器を手に取った責任を果たすべく、軍にいる。

「俺も一緒だよ。・・・MSに乗って、あの時、破砕活動をしてた。でも、それを快く思わない奴らが現れて。・・・結局できたことは半分にすることだけだった」

その言葉にミリアリアもカガリから聞かされた事を思い出す。ディアッカはあのユニウスセブンで破砕活動をしていたのだ。彼の悔しさを思うと自然、ディアッカの頬に手が触れていた。

「軍人の俺ができることなんてほんのわずかだ。けど、諦めたらそこまでだ。だから俺はザフトに戻ったし、まだザフトにいる。何ができるとはっきり云えないけれど、今度こそミリアリアが悲しみを押し殺して撮るような事にならない為にも」
「ディアッカ・・・認めてくれるの・・・?」

彼は今、はっきりとザフトに戻った理由とカメラマンとしてのミリアリアを認める言葉を口にした。

「後悔したよ。・・・俺は何時だって困難に立ち向かうミリアリアに惹かれたのに・・・。でもすぐ近くにいられない苛立ちとか不安とか、そんな物が邪魔してどうしても賛成できなかった。・・・本当は今だって、恐い」

素直な彼の言葉にミリアリアの奥底に秘めていた気持ちが浮上する。

「・・・わたしだって、アンタが前線に出てMSを駆って戦ってると思ったら恐い・・・信じてないわけじゃないけど、でも・・・」

思い出すのは「SIGNAL LOST」の文字。

「・・・そうだな。俺、今まで、オマエがどんな気持ちでMSを送り出してくれてたのか、ようやく判った。・・・やっぱ、俺、オマエにいつも教えられてもらってるよな」

苦笑気味なディアッカの顔にミリアリアも苦笑する。

「・・・アンタは何時も遅いのよ」
「でも、ちゃんと気がついただろ?」

ご主人様にいたずらを叱られた犬が褒めてもらおうとするかのようだ。彼は何時だってミリアリアに対してはこんな甘えたような顔をする。それが嬉しくてついつい世話をしてしまったことを思い出した。

「・・・まぁね」

結局何時だってミリアリアはディアッカに甘いのだ。その反対のことも云えるのだろうけれど、今は互いの無事の再会を喜んでもいいだろう。
彼女の言葉に勇気づけられたのか身体に回されたディアッカの腕が再び強くなる。

「ホント、もうこりごりだよ。ミリアリアが何を云ったって離れてなんかやらないからな」
「・・・アンタ、それ犯罪」

呆れるばかりの発言にミリアリアは溜息をついたが少しの間だけは目をつぶってやってもいいと思った。
そう、アークエンジェルに戻るまでの時間くらいは。

「お仕事に支障ない程度なら許してあげる」

素直じゃない言葉とは裏腹に、ようやく彼の背中に回された腕はディアッカをしっかりと抱きしめて彼に特上の笑みをもたらしたのだった。






てのひらの地球儀』のキハル様から素敵小説頂きました…!!!
管理人がキハル様のスケブに描かせて頂いたディアミリ絵から、お礼ということでお話を作って下さいました!!
管理人がキハルさんにお礼小説をせがんだのは秘密ですvvvげへへ!!(うわ)
エロスマン描いてホント良かった…!!!(笑)
もう何ですかこのきゅんきゅんな甘ディアミリ!!でもちゃんとシリアス!!きゅん!!(落ち着け)
あとアーサーがちょっと楽しかったです(笑)。
勿論私は描いてる時はただディアミリの絡み絵を描くことしか考えていなかったので、
あんな駄絵からこんなに素晴らしい小説を頂けるとは思ってもみませんでした。
すごく嬉しい!!流石キハルさんですね!!
何だかこの小説に管理人の絵がくっついてることが申し訳ないくらいです(ガタプル)。
とにもかくにも、これからも一生キハルさんに付いて行こうと思います!!(ストーカー宣言)
キハルさん、本当に有難うございました!!


キハル様の素敵ディアミリサイトへは、当サイトのリンク頁からも行けますので是非。