Calling 〜M side〜 藤宮瑠果 ある一葉の写真が人々の関心を惹いた。 瓦礫の街で年端もいかない痩せこけた男の子が、拾い集めた不発弾を売り歩く。 その写真は見るものに戦争の悲惨さを訴えかけていた。 何故こんな子供が、こんなことをしなければならないのか―――戦争の無情さに涙した。 それと同時に批判も起こった。 その場に居た大人は何故この子供を保護しないのか。 危険な仕事をしている子供を放置したままなのか。 撮影するくらいならまずこの子供を救うべきなのではないか。 人々の間でM.Hawwと署名のあるこの写真は、賛否両論を呼んだ。 「はぁ〜〜疲れた……」 鉛のように重くなった足を引き摺り、なんとか定宿のホテルにたどり着く。 何もしたくなくて、ベッドに身体を投げ出した。 相変わらずかび臭いシーツに顔を顰める。それでもココはまだマシなほうだ。 何しろシャワーとトイレが部屋についている。しかもドアに鍵まであるとは! 女の身としては、ムサい男たちと雑魚寝するのに比べたらココは天国だ。 幸いオーナーは無愛想だがきっちりした人で、不穏な輩に目を光らせている。ありがたいことだ。 パブで仕入れたビールとしなびたサンドイッチに手を伸ばす。 明日も取材だ。 シャワーを浴びなくても、腹ごしらえだけはしておかないと。 よく分からない味のサンドイッチをビールで流し込む。空腹の胃には少し堪えた。 今日も収穫なし。 死体はそこらにゴロゴロ転がっているけど、そんなもの写したってお金にならない。 よりエキサイティングでショッキングな写真。コレが重要だ。 クーラーの利いた部屋でポップコーンを頬張りながら、エグいのを人は見たがっている。 残酷な写真を見ながら、人は平和ってものを噛み締める。私はそんな場面を求めて戦場を這いずり回っている。コレが需要と供給ってヤツなのだろう。 最近は大規模な戦闘もないから、商売も上がったり。 さっき情報収集に行ったパブでお仲間≠ニ連合軍がゲリラをツツいてくればいいのに、と冗談を交わした。 不謹慎だけどコレが本音だ。 時々、人から何でこんな仕事をしているんだと聞かれる。 でもちょっと答えにくい。平和のためとか写真が好きだからとか、普通の人にはそういうふうに答えるようにしている。 だってそのほうがもっともらしいし、私の本心を打ち明けても理解されないと思う。 多分、戦場の麻薬に取りつかれたのだ。 私はずっとモニターの中の戦場を見てきた。 キラが撃墜されて、トールが死んで、ムウさんが目の前で爆散した。 私はただ見ているだけだった。 誰かが死ぬのをずっと見てきた。 私は知りたくなった。その先に一体何があるのか。彼らの死の向こう側を。 ハイエナとか人の不幸を商売にしてとか言われるのは構わない。 事実その通りなんだし。 でも――― 今夜みたいな綺麗な満月の夜は、なんだかやるせなくなる。 「寝よ……」 ビールの空き缶をゴミ箱に投げ入れる。ゴトンと見事に命中。明日はちょっといいことがあるかな。 あんまりネタないし。連合軍の従軍カメラマンのクチでも当たってみようかな。素性がバレたらヤバいけど、背に腹は変えられない。 重たいブーツを脱ぎ捨て、床に放り投げる。それが限界。汗と埃まみれの服は着替える勇気はなし。もうこのまま寝てしまおう。 瞼がくっつきそうになった時、携帯が鳴った。 この着信はディアッカから。 ゴソゴソとベッドに埋もれる携帯を探し出すと、心地よい声が聞こえた。 「ミリアリア?」 「ディアッカ……何?」 「ドア開けて。」 「え?」 眠気が一気に吹っ飛ぶ。 裸足でベッドを飛び降り、ドアノブに飛びついた。勢いよくドアを開けるとディアッカが携帯を片手に微笑んでいた。 「ミリィ。女の子なんだから、開けるときは少し警戒したほうがいいぜ。」 「な…んで……」 ディアッカだ。 プラントにいるはずのディアッカだ。 私はマジマジと目の前の男を見詰めた。明るい金髪に褐色の肌。一番大好きな夜明け色のアメジストの瞳。 「少しまとまった休暇が出来たから会いに来た。」 「休暇って……」 「三日間。頑張れば往復できるかなと思って。」 頑張ればって……普通はプラントから地球まで二日はかかるのに。それに地球に降りてからココに来るまでだって、かなり大変なはず! 「そういうわけで10分しか時間がないんだけどね。」 「え……」 「悪いな。折角会えたのに時間がなくて……」 ディアッカが苦笑いする。 たった10分のために―――私に会いに月の向こう側からやってきた。なんて呆れた男だ。 私はディアッカにそっと抱きついた。彼の腕が抱きしめ返す。 「イザークさんに怒られるわよ。」 「それはいつものこと。」 「シホさんには?何ていうの?」 「大丈夫。アイツを黙らせるネタはしっかり押さえているから。」 彼の懐かしい匂いが、私のコチコチに固まった心を解きほぐしていく。 暖かくて涙が出そうになる。 「ねえ…ディアッカ……」 「ん……?」 「あの子……死んじゃったわ。」 「……そうか。」 「あの子はあそこからどこへも行けなかったの。お父さんは戦争へ行って、お母さんは出稼ぎに行ったまま戻らない。 家にはおばあちゃんしか居なくて……どんなに危なくても生まれたところで死にたいってのが口癖だったの。 おばあちゃんを置いて他のところに逃げるなんてあの子には出来なかった。だってたった一人の家族だもの。そんなこと出来やしないわ。 私がしてあげられたことは、キャンディーを7個あげたことだけ。また戦闘があって、行ってみたら家は焼けちゃってた。」 「………」 「ディアッカ……私はあの子がこの世界に生きていたことを伝えたかったの。 ただこんなひどいところで生きて、笑って………あの時、無理やりにでも避難所に連れてっていたら、二人は助かったかもしれないのに。 私、出来なかった……」 「ミリィ……」 ディアッカが額に口づけてくれた。 「俺はあの写真はイイと思うぜ。」 「ディアッカぁ……」 彼の胸でちょっとだけ泣いた。 「お前の声は皆に届く。」 「うん……」 「今は聞こえなくても……いつかきっとだ。」 嬉しかった。 ただ……嬉しかった。 ディアッカに届いていたことが嬉しかった。 「ディアッカを好きになってよかった。」 私の声を聞き漏らさず、拾ってくれる貴方が大好きです。 |
『BLUE ROSE』の藤宮瑠果様より、期間限定フリー配布のディアミリ小説を(こっそり/お前)頂いて参りました。
ディアミリ以外にも色々なカプを扱ってらっしゃる楽しいサイトです。
有難うございました。
藤宮瑠果様の素敵ディアミリサイトへは、当サイトのリンク頁からも行けますので是非。