レクイエムが破壊され、デュランダル議長がメサイヤの爆破と共に死に、
地球連合・ザフト両軍共に混乱の中一時戦闘が停止された。
「フリーダム、ジャスティス、アカツキ、帰艦します。」
「艦長、エターナルより入電です。」
「開いて頂戴。」
様々な声の入り混じる中、エターナルのラクスから通信が入り、
モニターに彼女の姿が映し出されると、その場は一気に静まり返る。
そこへ丁度良いタイミングでキラ達もブリッジへ戻ってきた。
『皆さん、一先ずお疲れ様でした。依然どの軍も混乱しているようですが、しばらく大きな動きはないと言って
良いようですから、まずは各艦の補給と整備、そしてそれが一段落付き次第、
クルーの皆さんにもしばしの休息をとって頂いて、これから先のことはまた後程相談致すとしましょう。』
「ええ、そうね…。今は何も分からない状況だし、とにかくオーブからの連絡を待ちましょう。
ラクスさんもお疲れ様です。それではまた後で…。」
艦長のマリューが通信を切ろうとすると、ラクスがそれをやんわりと遮った。
『あの…ラミアス艦長、お忙しい中申し訳ないのですが、
今そちらにザフト軍ジュール隊所属のザクが一機向かっているのです。
着艦の許可を頂きたいのですが……。」
「ザフト軍の…?」
『はい』
そのラクスの言葉に、ブリッジのクルー達は疑問符を浮かべ互いに顔を見合わせた。
勿論ミリアリアも例外ではない。
そこにアスランが思い当たる節でもあるのか、会話に割り込んだ。
「ラクス…それはもしかして…黒のザクウォーリアじゃないか…?」
「ってアスラン、それってまさか…。」
キラも今のアスランのセリフで、何かに気付いたらしい。
『そうですわ。ラミアス艦長、お願いしてもよろしいですか?』
「ええ、それは構わないけど…。」
『ご心配なさらずとも、その機体はエターナルを援護して下さっていた機体ですわ。』
「…分かったわ。ミリアリアさん、至急整備班に緊急着艦用意をお願いしてくれる?」
ミリアリアが整備班に連絡をいれると、すぐに例の機体を確認した。
「艦長、例のザフト軍MSがこちらに向かってきています。識別コードはええっと…」
そこまで確認して、ミリアリアは驚いた。
「…これは……バスターの…?なん…で…」
それを聞いてマリューはラクスの意図に気付く。
「ミリアリアさん、ひとつ艦長命令を聞いて欲しいのだけど…」
「…え?」
マリューに頼まれて、ミリアリアは落ち着かない様子で格納庫にいた。
先ほどのブリッジでの会話といい、そして何よりバスターの識別コードが送られてきたこと…。
一瞬、むかし共に戦った男の顔が脳裏に浮かんだが、ミリアリアはあり得ないと思った。
何故なら、彼との関係は本当に終わっていたし、しかもミリアリアからきっぱりと振ってやったのだ。
それももうだいぶ前のことになるが、それ以来音沙汰もない。
ましてや彼がAAに再びミリアリアが乗っていようとは思ってもみないだろうし、
かと言って旧友に会うためだけに、この忙しい中AAを訪れるとは到底ミリアリアには思えない。
それなのに、さっきからミリアリアは格納庫の隅で同じ場所をグルグルと歩き回っているのだ。
しばらくすると格納庫に黒いザクが運ばれてきた。
ミリアリアは黒のザクを目にして、得体の知れない緊張を覚える。
コックピットが開かれると、その中からは深い緑色のパイロットスーツを着た男が現れる。
その瞬間、ミリアリアはその場から逃げ出したい衝動に駆られるが、ヘルメットを取りながら
男が自分との距離を縮めていくのにつれ、足が言うことを聞かなくなる。
ミリアリアは男から目が離せない。理由はもう…分かっていた。
ミリアリアはディアッカのことがまだ…好きなのだ。
「よぉ…おひさし」
「なんで…あんたがここに…」
「それ言われたの2度目」
もうずっと前の医務室での出来事を思い出す。
「…っ、何しに、来たのよ…」
「別に?ミリィに用があって来たわけじゃない。艦長に話があんの」
淡々と紡がれた言葉に、ミリアリアの喉が何かで詰まりかけた。
それをミリアリアは唾を飲み下してなんとか押さえる。
「……そう。分かった…艦長の所まで、案内するわ」
そう言ってディアッカに背を向けた。
「ミリィ」
「…何?」
ミリアリアは振り向かずに短く答えた。
自分は今、どんな顔をしているのだろうか。
「〜〜っ、ミリアリア!」
「!!」
ディアッカがミリアリアの肩を掴み、無理やり自分の方を向かせた。
「ったくお前は…。悪かった、今の嘘。艦長に用があって来たんじゃない」
「…じゃあ、何の用なのよ…?」
ミリアリアが突き放した様に言った。勿論肩に触れられた手を振り解いて。
そのミリアリアの態度にディアッカは長くため息をついた。
「はぁぁ…、この俺がミリィ以外に用があるわけないだろ?」
「なんなのよ一体、さっきから用が無いって言ったり、あるって言ったり…」
「だからそれは悪かったって…。用っていうか…
会いに来たんだよ、ミリィに」
ミリアリアは見開いた目をディアッカに向けた。この時初めてディアッカとまともに目が合う。
「…なんで…?」
「なんでって…、イザークに無理言って、ほんの少しだけど時間もらってきたんだよ」
「私が聞いてるのはそういうことじゃないでしょ…!私が言いたいのは…っ」
「何でお前に振られた俺が、会いに来たのかってこと」
「…っ、そうよ…っ」
「お前が…ミリィのことが好きだからに決まってるだろ」
「…ディアッカ…」
先の大戦が終わり、それからしばらくミリアリアとディアッカはお互い連絡を取り合っていた。
けれどある日、ミリアリアはディアッカにこう言ったのだ。
“どんなに時が流れても、私はディアッカの気持ちに答えることは出来ない…。
だから…もう終わりにしよう?あんたも、私も、その方がいい…“
その日は電波が悪く、プラントと地球での通信は音声のみだった。
それから間もなくして、ユニウスセブンが地球に落下した。
「あれから俺はミリィを忘れようと必死で働いたし、色んな女に手を出した。
そのせいでイザークにも迷惑掛けた。けど駄目だ…やっぱりミリィしかいないんだよ。
ユニウスセブンの破壊作業…地球に住む人間のために俺はやったわけじゃない。
ミリィが地球にいる、それだけだったんだ。」
ミリアリアはユニウスセブンの破壊作業にディアッカも加わっていたと、アスランからも聞いていた。
その話を聞いた時、彼女は自分の命がディアッカに護られたように感じた。
「アスランがミリィがAAにいるって教えてくれたんだ。
そんな状態の俺が、戦争が一時的とはいえやっと終わったってのに…
ミリィが同じ空間にいるってのに…会いに来ないわけないって…」
「ディアッカ、でも私…」
「分かってる…。だからもう一度聞きに来た。
本当に俺のこと好きじゃないなら、今度はちゃんと…声だけじゃなくて、
面と向かって俺を振って…?そうすればもうニ度とミリィの前には現れない」
“約束する”ディアッカはそう付け足して、目の前のミリアリアを見据えた。
ミリアリアの瞳が揺らぐ。
「ミリィが好きだ」
「……ディア…ッカ…、私…」
「ミリィ、ちゃんと俺の目を見て」
ミリアリアは依然視線を落としたままだ。
「ミリアリア」
心はかき乱され、これ以上その愛しい声で自分の名を呼ばれれば、ミリアリアの口はきっと嘘を発しなくる。
本当のことを言えば、確実にディアッカを傷つけることになる。
ミリアリアの心はトールを永遠に刻み続けるから。
恐る恐るミリアリアは視線をディアッカに向け、必死に本音を隠しながら声を発した。
「ディアッカなんて、大嫌い…」
一思いに吐き出した言葉は、震えていた。
みるみる内にミリアリアの表情は曇り、泣きそうになるのを下唇を噛んで堪える。
それなのに涙が溢れだし頬を伝う。
「泣くなよミリィ、期待しちまうだろ…!?」
「何言って…あんたなんか大っ嫌いって…言ってるじゃ…ないっ」
「じゃあなんでさっきからお前はそんなに苦しそうなんだよ!俺が嘘ついた時も、今も!!」
「そんなこと、ないわよ」
「あぁっもう、…ったく!!」
ディアッカは綺麗に流された自分の髪をクシャリと崩して、静かにミリアリアに歩み寄る。
ミリアリアは後ずさるもすぐに背中が壁にぶつかり、ディアッカから逃げられなくなる。
「俺が嫌いなら本気で拒めよ?」
「えっ…!?」
次の瞬間、ディアッカがミリアリアの顎に手を添えたかと思うと、
ふわりと唇に何かが触れた。
「──!!?」
ミリアリアは呆然として、最初何が起こっているのか理解できていなかったが、
視界いっぱいに広がるディアッカの目の色に、今の自分の状況を理解した。
「ちょ…んんっ…」
抗議の声はすぐにディアッカに飲み込まれてしまう。
ミリアリアはなんとかしてディアッカのキスから逃れようと身を捩るが、
背中の壁と掴まれた顎でそれもかなわない。
唯一空いていた両腕も、見つめられながら何度もされる触れるだけのキスに、抗う気など失せてしまった。
「ミリィ…」
「ディア…ん…」
ミリアリアの唇がやっとディアッカから開放される頃には、頬を伝っていた先程の涙も、
とうに乾ききってしまっていた。
格納庫の隅の暗がりでさえ分かるほど、ミリアリアの頬は赤く染まる。
「…何で拒まなかったんだよ…?」
「………」
「ミリィ、もう一度言う。俺はミリアリアが好きだ」
「………ごめん、なさい」
「っ何で!?」
ミリアリアの真横の壁が、ディアッカによって激しい音をあげる。
その大きな音にミリアリアはビクリと肩を震わせた。
「…だって…私はディアッカの気持ちに答えられない…」
「それは、今のミリィには他に好きなヤツがいるってことなのか?」
「違う、けど…」
「じゃあ…何なんだよ…!」
「…っ全身で私を好いてくれるディアッカと違ってっ…私にはそれが出来ないのよ!
だって私の中からトールがいなくなることはないんだから…
ディアッカだけを見ることは出来ないから…」
「ミリィ…っ」
気が付けばミリアリアはディアッカの胸に顔を埋める形になっていた。
お互いにとって久しぶりの感覚。
ただ抱き締め合うだけで満たされる。
ミリアリアも戸惑いがちにディアッカの背に腕を回すと、いっそう強く抱き締められる。
「愛してる」
ミリアリアの耳元でディアッカが囁く。
「だからディアッカ…私は…」
「ミリィは俺のこと、好きなの?嫌いなの?」
「……好、き…」
ミリアリアが自分のことをほんの少しでも好いてくれている、
その事実だけでディアッカはどうしようもないくらい幸せになれる。
「ミリィ、俺は最初からお前の中のトールを奪うつもりなんてない」
少しだけミリアリアを抱く腕を緩め、ディアッカはミリアリアの顔が見られるようにして言った。
「え…?」
「トールを胸に想い続けるお前が、俺はずっと好きなんだよ」
「ディアッカ…」
ミリアリアがふわりとディアッカに微笑むと、すぅ…と一筋の涙がミリアリアの頬に再び流れた。
「ま、その内トールと俺との愛の割合を変えていくつもりだけどな」
そう言いながらディアッカは、涙を舐めとるようにミリアリアの頬へキスを落とした。
「バカ…覚悟しとくわ」
ディアッカはこれ以上ないくらいにミリアリアを強く抱き締めて、
静かに、確かに、囁いた。
「愛してる、ミリアリア」
「私も…ディアッカが好きよ」
そして再びキスを交わす。
───甘くて、ささやかなキスを───
END
ありがち……(苦笑)。
本編にあまりにディアミリがないまま終わるもんだから、こんな妄想して
耐えてました(笑)。
もしかしたらもうこの手のネタで書いてらっしゃるサイトさんが既にあるのでは…(滝汗)。
あったらすみません…!!
しっかしあれだな、当サイトのディアミリシリアスはトールが出張る出張る(笑)。
突発的に書いたものなので、タイトルはまだありませんが、その内付けるかもです。
最初は30題のつもりなかったんですが、ディアッカが思わぬ所でお題を口にしてくれたので、
めでたくお題行き(笑)。
<2005年11月6日>