※トルミリ前提ディアミリです。ハッピーエンドですが、ミリアリアが暗いので苦手な方はウィンドウを閉じてお戻り下さい。
忘れない。忘れることなんて、きっとずっと、一生できない。
今でも彼は、ひょっこり帰ってくるんじゃないかって思わずにはいられない。
だって私は、彼が死んでしまう瞬間を、見ていないもの。
MIAなんて言葉だけで理解なんて出来るはずがない。
生還した親友の言葉だけで納得なんて出来るはずがない。
彼がいたから、私はここにいるのに。
彼がいない今、私はどうすればいい?
心にぽっかりと穴が空いた気分って…こういうことをいうんだろうなぁって…思う。
「………」
いつからだろうか。
こうして眠れない夜を過ごすことに抵抗を感じなくなったのは。
決して寝心地の良いとは言えないベッドで仰向けになりながら、もう何時間天井を見つめたんだろう。
身体は日々の疲れに休息を求めているはずなのに、少しでも彼のことを考えてしまうと心が目を閉じることをひどく拒む。
こんな時に無理矢理寝た日は決まって、あの人の夢を見てしまう。それを判っているから余計に眠りになんてつけない。
「お願いだから、出てこないでよ…」
いつか覚まされる夢は、彼がもうこの世にいないことを何度も私に思いしらせる。
このまま夢の世界にいれたなら、どんなに幸せだろう。そんなことが出来るなら、私は喜んで眠りにつけるのに。
「…やっと慣れてきたところなの」
無意識に彼を探すことがなくなった。
ブリッジの彼の席を振り向いて、誰かを無意識にその名前で呼ぶこともなくなった。
意識して気を張らなくても、涙なんてもう出ない。
だから覚醒という瞬間をもって、彼を失った瞬間を何度も味あわさせないで欲しい。
「まだ…誰かいるかなぁ…?」
ゆっくりと起き上がって、暇を潰しに食堂へ行くことに決める。
誰でもいい。
自分一人でいたら、彼のことばかり考えてしまって埒があかない。
もしも誰かいたなら、少し気分が紛れると思った。そうすれば何も考えずに眠れるんじゃないかって。
そんなことを思いながらふらふらと食堂へ向かう。
「…あ…」
食堂から明りが洩れていたことに安心して、思わず声が出た。誰かいる。
期待しつつ食堂のドアを開くと、その期待は一気に崩れ去った。
「…あんた…」
「よぉ…」
そこには最近この艦の一員となった元ザフト兵の男。ちょうどコップに水を注いでいる所だった。
「あんた、こんな時間に何やってんのよ」
この男とは出会った時が最悪だったせいか、私の中で奇妙な関係が成り立っている。
「別に?ちょっと眠れなくて、喉渇いたからさ。ミリアリアこそ、どうしたんだよ?」
他の皆とは違って、この男との間に“自分”を取り繕う必要なんてもう既になかったから、
この男の前では“醜い自分”を曝け出していられる。
だから、素の自分でいられる…というより、素の自分でいても差し支えないこの男には、今はあまり会いたくはなかった。
この男は私の檻にも枷にもならないから。スイッチの入らない私は、一人でいる時と変わらない。
彼を消せない。
それなのにこの男は、何が気に入ったんだか、笑顔も作らない私なんかと何故か行動を共にすることが多かった。
ただの偶然だとしても、こんな気分の時にまでホントにやめてほしい。
「………あんたと一緒。水飲みに来たの」
我ながら信じられないくらい無愛想。
「あんまり眠れないなら医務室にでも行けば?睡眠薬ぐらい置いてあるだろ…?」
言いながら、新しいコップに水を注いでそれを私に差し出したから、私はその行為に甘えてコップを受け取った。
「…ありがと。でも、だったらあんたが医務室行きなさいよ。MSパイロットなんだから…」
「俺はいいんだよ。それよりミリアリアの方が全然寝てないんだろ?」
「!!」
ああ、私がこの男に会いたくなかった理由がもう一つあった。
この男は普段は飄々としているくせに、実はいつだって的確に私を見透かす。
必死で隠し続けている一番奥の私を、この男だけはふとした一言でいとも簡単に暴いて、引っ張り出してくる。
だから私は逃げ場を失って、居た堪れなくなって、苦しくなる。…泣きたく、なる。
この男のこういう所が、何より苦手。
「そんなの、あんたには関係ないでしょ…!?」
早くこの場所から逃げ出してしまいたくて、渡されたコップの水を一気に、半ば無理矢理喉へ流し込んだ。
泣きたくなる衝動を抑え込むようにして、喉が水に圧迫されてクンッと痛む。
「関係なくなんてないね。…だって、俺は知ってたから」
「…っ!」
私の手から空のコップを奪い取って、驚くほど真剣な眼差しを向けられる。こんなのは初めてだった。
「なぁミリアリア。ここで会ったの…偶然だとでも思った…?」
紫色が、怒りに青白く燃えているような気がして、身震いする。怖い。
「何でミリアリアが眠りたくないのかなんて、そこまでは俺には判らない。でも、もうこれ以上は駄目だ。無視出来ない」
「…な、何の…はな、し…」
ちゃんと喋っているはずなのに、言葉がまともに出ていない。
「本当は俺、ミリアリアが来るのを待ってたんだぜ…」
ふらりと、突然よろめいた身体を褐色の腕に支えられる。
「おっと…」
「!?あんた…いったい…何、を…」
力が抜けて、立っていられなくなる。目蓋に重りでもついているみたいに、目を開けていられなくなる。
「いや…いや、おねが…い、トール……っ」
「ミリアリア、大丈夫だから…。目を閉じて…」
まるで催眠術にでも掛かったかのように、その声が脳に響いて逆らえなくて。
朦朧とする意識の中、何とか捉えたこの男の表情が、可哀相なほど悲しく歪められていたのが、ひどく印象的で。
何か温かいものに包まれたかと思った瞬間、ぷつりと感覚が途切れた。
「悪い、ミリアリア…今の俺にはこうすること以外どうにも出来ないからさ。それでも、いい加減無理にでも睡眠取らないと…
お前、壊れちまうだろ?俺にはそれを黙って見過ごすなんてこと出来ないんだよ…。…例え、睡眠薬を使ってでも」
──やっぱり、現れるんだね…トール。ねぇ本当に、あなたはもういないの?
だってこんなにもリアルなのに。
ねぇ…黙っていないで、何か言ってよ。そうやって笑って…黙って私を置いていくんでしょう?
──ミリィ…泣かないで…。…お別れだ。
──トール…手なんて振らないでよ。
──ここでももう、お別れだよ。
──いや…っ、トール…置いていかないで…。私も連れていって…。
──大丈夫。ミリィ、大丈夫だから…。会えなくても、ずっと俺はミリィの中で生き続けるから。
だからミリアリア、安心して目を閉じて。そして生きて。ちゃんと俺がミリアリアの中で見守っていてあげるから。
「トー…ル…」
普段とは違った感覚を覚えて、恐る恐る目蓋を持ち上げる。
私はいつもより少しだけ寝心地の良いベッドに横になっていて、頬も、こめかみも、枕も、ぐっしょり涙で濡れていた。
今までだって散々泣いてきたけど、人間、こんなにも涙が出るものなのかと、少し呆れる。
そして不思議と、覚醒と共に訪れるはずの言いようもない喪失感が、なくなっていた。
胸に空いていた穴が、何かとても優しいものに塞がれているような気分。
手の平の温もりに気がついて、ふと視線をずらすと、最早見慣れてしまった褐色の手が重ねられていて、
その男は私が占領しているベッドの端に頭を乗せて、金色の髪を乱しながら寝息を立てている。
「…ディ…アッカ…?」
ベッドから香る彼の匂いと、しっかりと握られている手の平に、何故だか穏やかなものが込み上げてくる。
その感覚があまりにも久しくて、懐かしくて、やっぱり私はまたこめかみを濡らした。
「…ん…くそ、首いてぇ…。あ、あれ…ミリアリア?」
もそもそと文句を言いながら身体を起こした男と目が合った。
「おはよ…ミリアリア。…良く、眠れた?」
ふわりと向けられた笑顔と、尚握られたままの手の平が妙にくすぐったくて、でも嬉しくて、少しだけ力を込めて握り返す。
「!!」
そうしたら目の前の男が照れながら驚いていて、何だかおかしかった。
何かが、自分の中で変わっていくような気がした。
「おはよう…ディアッカ」
END
適当に書き始めただけの小説がびっくりする位速く書きあげられてしまった…!!
当サイトではとっても珍しい、初期ディアミリ。今更になって、また久し振りに初期ディアミリの暗い雰囲気とか、
精一杯な内面とかシリアスなのを書きたくなっちゃたんですよね。
今回は当サイトの中で一番糖度低いんじゃないかしら、ねー(何だか楽しそうだなおい)。
ミリアリアのちょっとやさぐれた態度が何とも新鮮で…楽しかったですvv(やっぱりか)
終始ディアッカのこと“この男”呼ばわりですよ(笑)。まぁ…ね、“彼”って使えなかったんですもん。トールがいるから(苦笑)。
ディアッカはディアッカでなんて健気(大笑)。これも日々のミリィストーキングの成果ですね(台無し)。
そんなわけで何の苦労もなくポンっと産まれてしまったディアミリ小説です。
実はディアッカ視点とかもスンゲェ書きたかった。イメージした絵もあった。両者視点で微裏も考えた。
そういう意味では難産でしたが(笑)。またいつか機会があれば、ネタを形にしたいですね。
ここまで読んで下さって有難うございました。
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