―――システムオールグリーン、スカイグラスパー、発進、どうぞ!!
<SIGNAL LOST>
―――……え?
―――トールもキラも…MIAってどういう意味ですか?
―――トールがいないのに…っ、何であんたなんかがここにいるのよぉっ…!!
広い展望室にぽつんと一人佇むミリアリアは、ゆっくりと閉じていたまぶたを開いた。
目の前に広がるのは真っ暗な闇と無数の星。
そしてもう一度目を閉じる。
目を閉じれば、まぶたの裏にしっかりと焼き付いている赤い文字。
戦闘中は薄暗くなるブリッジで、モニターに映る映像や様々なランプの光は目に痛い程よく映える。
中でも一番痛かったのは、自分のモニターに映る<SIGNAL LOST>の真っ赤な文字。
あの瞬間の、ほんの数時間前に発したスカイグラスパーの発進管制。
あれが彼への最後の言葉。
それは“いってらっしゃい”の言葉。
“おかえり”は“いってらっしゃい”と対の言葉のはずなのに。
ミリアリアは彼に“おかえり”を言うことはなかった。
“当たり前”がこんなにも脆い。
それを知った時、彼らに最後に声を掛ける自分が、ミリアリアは怖くなった。
変わらず発進管制をするミリアリアは、“いってらっしゃい”の言葉がこれほど自分にとって大きなものになるなど、
思ってもみなかったのだ。
ふと展望室の入り口に気配を感じて、ミリアリアは再び目を開けた。
「なーにやってんの?こんな所で」
声の主に気付いて、彼女は振り返った。
独特だが、今や聞きなれてしまうほど、彼女にとっては身近な声。
「…ディアッカ」
「………」
「……何よ?」
声をかけておきながら、ディアッカはミリアリアの顔をただ見るばかりで、何も言わない。
「……泣いてるのかと思った」
「え?」
「後ろ姿がさ、なんとなく…」
泣いてはいないが、確かに泣きそうになるような辛いものを見ていた。
そのことに何となく図星を指された気がして、ミリアリアは「何でディアッカはこうなのよ…」と面白くなさそうな顔をした。
「またそうやって怒るー」
ディアッカはミリアリアの隣に並び、彼女の髪に指を絡めて頭を撫でる。
いつもならそこでまた不満を表すミリアリアが、今日は何も言わず、ディアッカは彼女の次の言葉を待つ間ずっとそうしていた。
「……ねぇディアッカ…」
「ん?」
ディアッカは撫ぜる手を止めて、オーブのジャンバーのポケットにその手を突っ込んだ。
直接ではなくて、あえて彼は窓に映ったミリアリアを見た。
「あんた…なんでバスターに乗ってるの?」
「ミリィ…?」
「ミ・リ・ア・リ・ア!」
「…ごめん、ミリアリア。…にしても、どうしたんだよ急に?」
「別に……ただ最近、私あんたに管制するの…少し嫌なの」
「…トールを、思い出すから?」
「………」
ディアッカは俯くミリアリアから視線を外し、真っ直ぐ前に広がる宇宙空間を見た。
「ミリアリア、俺が今バスターに乗ってるのは、あの日…俺がオーブで釈放された時からずっと、
ミリアリア…と、お前が大切に思う艦の皆を護りたいと、思ってきたから。この艦の皆のためになら、俺は戦える。
この気持ちはさ、キラもアスランも、フラガのおっさんも、皆…………トールって奴も……きっと一緒だと思うぜ?」
はじかれたように、ミリアリアは顔を上げた。
そして窓越しにではなく、自分の横にいるディアッカを見上げた。
ディアッカの瞳は、遠いソラを映している。
「ミリアリア、管制出してよ」
彼らは戦う。自分も戦っている。皆がそれぞれの大切なものを護りたいと。
「そしたら俺は、もっと頑張れるから。……ここに…帰って来るために」
“いってらっしゃい”と“おかえり”は対だからこそ、
“必ず帰ってくるように”とその言葉に願うのだ。
ひとつひとつの言葉に祈りを込めて、彼らを送り出す。
それがミリアリアの出来ること。
武器を取って戦うことも、
艦長のように命令を下すことも、
他の仕事もミリアリアには出来ないけれど、
孤独な戦いに出る彼らに、
帰って来る場所はここなのだと、
無事に帰ってきますようにと、
その想いと共に彼らを送り出す。
“おかえり”を、言わせてと。
自分を見上げるミリアリアに、ディアッカは身体と視線を向き合わせた。
「ディアッカ…」
「俺に管制、出してくれる?っていうかミリアリア以外の声なんてヤダ」
ミリアリアは小さく、ゆっくりと頷いた。
「あの、ディアッカ…っ」
ディアッカは首を少し傾けて、無言でミリアリアの言葉の続きを促す。
――『総員、第一戦闘配備!!繰り返す、総員……』――
「あ…行かなきゃ…!」
「だな。じゃ、また後でなミリアリア!」
ディアッカが片手をヒラヒラさせて、ミリアリアに背を向け走り出そうとした。
「ディアッカ!!」
「…っと!?何?」
「…帰ったら…戻って来たら…、名前、呼んでほしいの…っ!!」
「ミリアリア?」
「じゃなくて………ミリィって」
ミリアリアが小さな小さな声で言ったのを、ディアッカは一言も聞き洩らさなかった。
一度その紫の瞳を瞬かせると、今までにないくらい嬉しそうに彼は笑う。
ミリアリアは何故か顔が熱くなっているのに気付き、そして今にもこの場から逃げ出したい気持ちを抑えて言った。
「だ、だから…あんた…っ」
「了ー解!任せとけって!」
「…っ…!!」
そしてミリアリアとディアッカは持ち場に着くべく
二人同時に駆け出した。
―――システムオールグリーン、バスター、発進、どうぞ!!
―――ディアッカ・エルスマン、バスター、発進する!!
END
ひっさし振りのディアミリ小説。ネタ自体は相当昔に書いたものなんですが、
その時は携帯で書いてて短かったので、今回改めて書くにあたってかなり加筆加筆修正(笑)しました。
長いようで改行が多いのであんまり内容詰まってないっていう…ね。
一応ミリィはまだディアッカのことを好きだって自覚してません。ディアッカの片思いですvv
ていうか、今気付きましたけど、もしかして管理人の書いたディアミリ小説で本当に絡みないのってこれが
初めてじゃないですか…!?うわー…(滝汗)。
タイトルは無しです。なんか付けにくいので…。
<06,07,11>