Hello Baby!:12月25日
コーディネイターとナチュラルとの間に子どもが出来る確率は限りなく低い。
そこに医学の力が加われば無理な話ではないが、その確率がずば抜けて高くなるというわけではなく、
まぁ何が言いたいのかと言うと、自然に子どもが出来るというのは普通じゃ考えられないってこと。
だからってわけじゃないけど、勿論避妊なんてしていなかった。好きな女を抱くのにそんなの必要ないって思ってたし。
でも本当にそこに命が宿ったんだと思うと、俺と彼女の子どもなんだと思うと、何かあったかいもんが胸に込み上げてきて、
胸がいっぱいになって、なんかよく判らないけど、無性にミリアリアを抱き締めたくなった。
まさかこれ以上ないだろうって思っていた彼女への愛に、更に向こう側があるとは思いも寄らなかったんだ。
そして嬉しい時間はすぐに過ぎるっていうけど、驚くことにもう7ヶ月。
日に日にその成長が目に見えて判って、奇跡のような命に感動する毎日。
信じちゃいないがもし神様がいるのだとしたら、今日この日くらいは授かった命を感謝していいのかもしれない。
「ったくイザークの奴、こき使いやがってー。ミリィもう寝てるだろーなぁ…」
軍人にクリスマスも誕生日もない。
とにかく何かがあればいつだってその堅苦しい軍服を着なければならないし、命令があれば銃を構えなければならない。
クリスマスっていうのは町中が幸せな雰囲気に染まる反面、人が集まるから何かとトラブルも増える日なわけで。
俺は例年通り数日前から軍に泊まり込みで仕事をしていたが、それでも何とかして半ば無理矢理この状況までもってきた。
聖なる夜は最早あと数時間で日付が変わって、ただの夜になってしまう。
例え眠っていたとしても、例えほんの少しでも、せめて彼女とこの夜を過ごしたい。ぬくもりを感じたい。
この日雪の降り積もった純白の地面を、赤い血で汚すようなことがなかったことに唯一喜びを感じながら、
助手席に乗せた大きな紙袋にちらりと横目を投げて、キラキラとイルミネーションが街を彩る中、俺は車を走らせた。
家に着き車を降りると、リビングの窓から明りが洩れているのが外から見えて、慌てて玄関の扉を開ける。
「ミリィ!!」
「おかえりディアッカ!お疲れ様、寒かったでしょ?」
そう言って、ミリアリアの温かい手の平が俺の冷えた頬をやんわりと挟んだ。温もりがじわじわと染み渡ってくる。
「ただいま…って、そうじゃなくて!ミリィ、先に寝てて良かったのに…!」
夜更かしとか、不規則な生活は妊婦にとって大敵だっていうのに、ミリアリアはこういう無茶くらいなら平気でする。
現に彼女は随分と大きくなったそのお腹を抱えながら、悪びれることなく首を傾げてエメラルドの瞳をぱちくりさせている。
「だってディアッカ、今日はクリスマスでしょ?あんたならちゃんと日付が変わるまでに帰ってきてくれるって…信じてたもの。
私だって少しでも早く…あんたに会いたかったんだからね」
そのくせ、そうやって何気なく可愛いこと言ってくるからタチが悪い。…怒るに怒れないっての。
結果、俺は少し困った顔しかできなくて、いつものようにただいまのキスを頬に落として言う。
「……だーめ。待っててくれるのは嬉しいけど、ミリィと俺の大事な身体なんだから、あんまり無茶しないでくれって…な?」
「うん、判ってる。でも今日だけ…ね?」
判っているのかいないのか、口を尖らせて返事をするミリアリアは何故か楽しそうにしていて、でもそれはきっと、俺も同じなんだと思う。
軍服を着替え、自分の食事も終えてソファでゆっくり二人くつろぐ。
このひとときさえミリアリアとなら煌めいて、時を忘れそうになりながら今日がクリスマスだってことを思い出し、
すぐ側に置いておいた大きめな紙袋の中へ手を伸ばす。
「あのさ、ミリィ…これ…クリスマスプレゼント」
紙袋の中身はいつものように仕事の書類か何かだと思っていたのだろう。ミリアリアはそこから出てきた鮮やかな包みに目を丸くした。
「あ、ありがと…。今年は特に忙しそうだったから、もらえるなんて思ってなかったわ…」
控えめに言った後、もう一度「ありがとう」と今度はとびきりの笑顔をのせて言ってくれた。
結構無理に頑張ってきた甲斐があった。疲れが彼女のそれだけで癒される。
「ね、ディアッカ…?私からのも受け取って…くれる?」
ミリアリアの笑顔に見惚れていたら、思わぬ言葉。危うく彼女の言葉を聞き逃しそうになった。
「ちょ、マジで!?勿論!ミリィからなら何だって受け取るって!!…俺の方こそ今年はないと思ってたぜ…。サンキューな!」
だってそうだろ?お腹が大きくて大変なのに、プレゼント選びに行くなんて出来なかったんじゃないかって思ってたんだから。
きっとこのプレゼントも、俺と同じでミリアリアの頑張りがあったんだと容易に想像がつく。
寒い中、ゆっくりゆっくりと歩を進めて、選んでくれたに違いないそのプレゼントを俺は丁重に受け取った。
その時、もう一つ彼女の手の中に残っている別の小さな包みに目がとまった。
「ミリィ、それは…?」
「ああ、これ?その…まだ気が早いかなぁとは思ったんだけど…」
そう言って照れくさそうに包みを開ける。そこから顔をのぞかせたのは白い毛糸で編まれた天使の人形。
「…これは…ミリィ、もしかして…」
「クリスマスの飾り…。生まれてくるこの子に…私が編んだの。この子が無事に育っていけることを願って、毎年一つずつ
飾りを増やしていけたらなぁ…って思って…」
不器用なミリアリアが編んだそれは、少しいびつで、でも店に売ってるどんなものよりも輝いて見えた。
「ミリィ…」
そして何より、彼女が俺と同じことを思ってくれていたのが嬉しかった。まだ姿は見えないけれど、確実に俺たちの間で息づく存在に。
「なぁミリィ、…俺ももう一つ、プレゼントがあるんだ」
さっきと同じ紙袋の中から、もう一つ用意していたものを取り出すと、それを見ていた彼女が何か勘付いたのか、
その頬が興奮で紅潮しだす。
「ディアッカ…!それ!!」
頷いて、彼女のお腹に手を添える。
「あんまり大きなやつじゃないけどさ、でもこいつも欲しいかなぁ…って思って。……クリスマスツリー。
それにミリィ、これにその天使を飾ればいいんじゃん?」
「……っ!!何だ、ふふ…やだ、もう二人して…。嬉しい…」
プレゼントの中身を聞いて小さく目を見開いたけど、彼女も俺と同じことを考えていたのが嬉しかったのか、すぐに幸せそうに微笑んで、
珍しくミリアリアの方から俺にふわりと抱きついてきてくれた。
俺には真っ白なワンピースを着る彼女のその仕草は他の何よりも天使に見えた。
そんな彼女の背に左手を回し、右手でちょこんと跳ねる髪を梳く。
「ミリアリア」
名前を耳元で囁くと、彼女はくすぐったそうに身を捩って俺を見上げる。
「…この感じ、久し振り」
「…ばか…」
掠めるように唇を合わせ、愛おしく名前を呼んで、そして愛おしい声で名前を紡がれる。
「ん、ディア、ッカ…」
時折髪を撫ぜては、どちらからともなく触れるだけのキスを幾度も交わして、互いの睫毛がまぶたをくすぐる。
それだけでも充分に幸せで、満たされる思いがする。
「!!」
何とも言えない心地よさの中を漂っていると、突然ミリアリアが驚いた顔をした。
構わずにキスをしようとしたけど、俺の口を彼女の手が無遠慮に阻む。俺は怪訝な顔をしてその手を掴んだ。
「ミーリーィー?」
「ち、違うのディアッカ。あ、やっぱり…!ほらディアッカ!!」
「何、どうしたって?」
今度は彼女が俺の手を取る。何故か嬉しそうにするミリアリアに一体何がどうなっているのか判らなくて、
とにかく彼女に促されるままそのお腹に手のひらを当ててみた。
「!!!」
「ね、ほら今の!!分かった?」
多分、俺は今ものすごく間抜けな顔をしているのだろう。くすくすと笑う彼女と目が合った。
「…う、動いた…!!こいつミリィのお腹蹴ってる…!!」
途端に胸が躍り出し、柄にもなく何か新しいものでも見つけたガキみたいに声がはしゃぐ。
「うわぁ信じらんねぇ…!何か感動ー…」
「だって今日はほら、クリスマスだもんね」
またしてもまるで相槌でも打つかのように、もう一度伝わる手の平への衝撃。
「きっとこの子も、私たちのクリスマスプレゼント喜んでるのね」
「そんで俺たちも、こいつから思わぬプレゼントをもらったってとこだな」
そうして二人、未来の今日に思いを馳せて笑い合う。
「ミリィ」
「ディアッカ」
「「メリークリスマス!!」」
だって今日はクリスマス。
聖なる夜を今年もまた二人が無事祝えたことに
素晴らしい命の育みに
ゲンキンかもしれないけど、改めて感謝する。
「それから……」
――――Hello Baby…7ヶ月目の君へメリークリスマス
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はーいメリークリスマース皆さーん!!ちょっと遅刻しましたが何とかクリスマス当日にアップです。
半ば無理矢理終わらせたのは紛れもなく管理人です(滝汗)。
ん、頑張った!!グダグダだけど!!(駄目管理人め)
今回は胎動です。お腹の大きなミリアリアって想像つかないなぁー…うーん。
そして実はミリィとディアッカのお互いへのプレゼントもちゃんと考えていたんですが、流れの都合や
面倒臭いっていう大人の都合(そんな都合はありません)のためにカット。
あとプレゼントなんて今時ネットでも買えるとか、そういうのも気にしない。
プレゼントが何かは皆さんのご想像にお任せしますvv
これただでさえ管理人は絵描きなのに、あまりにも追いたてられて慌てて書いた小説なので、
きっとまた修正することになると思います。次はもっと余裕もって書けるといいなぁー…。(遠い目)